第54話「甘やかし好き」
「……私が甘えん坊なら、来斗君は甘やかし好きだよ……」
撫でて甘やかしていると、突然美咲が物言いたそうな目を向けてきた。
反抗のつもりらしい。
「意味がわからないな」
「私や心愛ちゃんを、嬉々として甘やかしてる……」
心愛はともかく、美咲を相手にそんな様子を見せたつもりはない。
随分と都合がいい解釈だ。
「甘やかし好きなら、誰でも彼でも構わず甘やかしてる気がするけど?」
少なくとも漫画やアニメだと、そんな感じに描かれている気がする。
まぁ男キャラではなく、女性の年上キャラだけど。
「それを言うなら、私だって来斗君にしか甘えてないし……」
俺に甘えていることは認めるらしい。
まぁこれだけくっついてきているのに、本人に自覚がないはずがないか。
「俺が甘やかし好きなら、美咲はどう思うんだ?」
美咲がなんで引き合いに出してきたのか気になったので、反応を見てみることにする。
「私と心愛ちゃんだけなら、いいかな……」
それはつまり、心愛以外の他の人を甘やかすのは許さないということだろう。
清楚可憐で優しそうな顔をしておきながら、意外と独占欲があるようだ。
「他に甘やかす相手なんていないだろ?」
「氷華ちゃんとか……?」
俺が鈴嶺さんを甘やかす?
少し、彼女を甘やかす姿を想像してみる。
――寒気がした。
そもそも、美咲のように甘えてくる鈴嶺さんが想像できない。
「俺はそんな、命知らずじゃないぞ……?」
「いったい氷華ちゃんをなんだと思ってるの……」
思ったことを言うと、苦笑いを返されてしまった。
鈴嶺さんは、学校外では随分と態度が柔らかいとは思うが、それでも男から甘やかされるのを喜ぶような子ではないだろう。
気軽に頭を撫でようものなら、絶対零度並に冷たい目で罵られそうだ。
「ぶちぎれられる未来しか見えない」
「そんなことないと思うけど……」
「いや、そんなことあるだろ」
美咲や女子には鈴嶺さんも優しいんだろうけど、男を嫌っている彼女が男に触れられて怒らないはずがない。
海の一件でも、かなり根に持たれていたし。
「まぁ、来斗君にその気がないならいいんだけど……」
どうやら美咲は一人勝手に納得したようだ。
俺としても特に親しくない相手を甘やかす気なんてないので、それでいい。
甘やかそうとしても、相手から気持ち悪がられるだけだろうし。
鈴嶺さんは幼馴染であり、美咲の件もあって距離は近付いているかもしれないが――甘やかすような関係になることは、ありえないだろう。
「まぁ今のところは予定がないな」
「今のところは……」
美咲が言っていることが変なので呆れ気味に返すと、俺がてきとーに言った言葉が彼女には引っかかったようだ。
再度物言いたげに俺の顔を見上げている。
「一生ないから、気にするな」
俺はそう言うと、美咲の頭を優しく撫でて落ち着かせるのだった。
「――ねぇね、あしょぶ?」
そうしていると、目を覚ました心愛がドアを開けて、部屋の中を覗き込んできた。
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