第52話「よくわからない」
美咲の気持ちが、よくわからない。
俺はチラッと隣を見る。
「……♪」
美咲は宿題をするわけでもなく、ご機嫌な様子で俺に頭を撫でられていた。
くっついてくるし、撫でるのも割と当たり前になるくらいにはよくしているのだけど、付き合っていない男女がすることではないだろう。
一応偽装として付き合っているとはいえ、今まで多くの男たちを振ってきた美咲が、こうして男に体を触らせていることはやっぱり違和感がある。
人目がある時なら付き合っているフリをしているだけ、と割り切れるが、人目がない俺の部屋でもしているので、正直よくわからないのだ。
先に本気で付き合うことはない旨や、告白をしてくるなと言われていることから、美咲が恋愛を本気でしているわけでもないだろう。
本人からは、好きになれないと言われているのだし。
単純に、兄代わりのように俺のことを見ているのだろうか?
どうも、根は甘えん坊のようだし。
――とはいえ、そう考えてもやっぱり腑に落ちない。
この辺、一度鈴嶺さんに相談してみるのがいいかもしれない。
どのみち彼女は、俺たちが本当は付き合っていないことを見抜いているし、大した障害にはならないだろうから。
「そろそろ宿題をしないか?」
「まだ早いよ。宿題はいつでもできるんだし」
手を放すと、美咲がすぐに掴んできた。
そして、自身の頭に俺の手を誘ってしまう。
どうやら、まだ撫でておけ、ということらしい。
「美咲はすぐ終わるのかもしれないけど、俺は時間がかかるからなぁ」
「夏休みはまだまだあるんだし、私が教えてあげるから大丈夫だよ」
やはり美咲はこの時間を終わらせたくないらしい。
学校のマドンナがこんな甘えん坊だと知ったら、みんなはどう思うんだろうか?
……死ぬほど羨ましがられそうだな。
「そういえば、結局俺と偽カップルになってからは告白をされなくなったのか?」
もう夏休みに入っているので今更な気はしなくもないけど、気になったので尋ねてみる。
「うん、今のところはないよ。来斗君のおかげだね」
美咲はかわいらしい笑みを浮かべながら、コクリッと頷いた。
ちゃんと俺の存在は抑止力になっているらしい。
嫌われ者だし、イケメンでもモテ男でもないからどうかと思ったけど、やはり男持ちの女の子には手を出しづらいようだ。
「周りから俺との関係を突かれたりしないのか?」
クラスで騒ぎになったところは目の当たりにしているが、あれ以来表立った騒ぎは起きていない。
だけど、裏ではどうなっているかなんてわからなかった。
「ん~?」
美咲は人差し指を口に当てながら、天を見上げて考える。
「あのクラスでの一件以来は、特にないと思う」
どうやら、周りは触れないようにしているようだ。
あの時は誰の目から見ても美咲はキレていたので、触れてはいけない地雷的な扱いになっているのかもしれない。
俺たちにとっては都合がいいことなので、何も問題はなさそうだ。
「来斗君は聞かれたりとかしないの?」
「俺にわざわざ話しかけようっていう物好きは、そうはいないからな」
聞かれたところで、まともに相手をしないのだけど。
「私や氷華ちゃんは物好きってことかな?」
「それは悪意がある取り方だな?」
とぼけた表情で見上げてきた美咲に対し、俺は溜息混じりに返す。
美咲は付き合っているフリをしているのだから話しかけてくるのは当然だし、鈴嶺さんも幼馴染の彼氏に話しかけるのは普通のことだろう。
そもそも、鈴嶺さんの場合は学校だと塩対応で、俺に話しかけてくることがそうそうない。
「ふふ……まぁ私は、みんなの見る目がないだけだと思うけどね」
美咲はそう言うと、コテンッと再度俺の肩に頭を乗せてきた。
完全に彼女ムーブだ。
「くすぐったい」
「むぅ……」
わざと美咲から離れると、不満そうな目を向けられてしまった。
頬も膨らんでおり、拗ねているのがよくわかる。
なんというか……やっぱり、偽カップルの領域から出ている気がした。
でも、美咲との約束があるので、こちらから突くこともできない。
付き合うことにしたばかりの時は想定していなかったが、こうなってくると結構厄介な約束をしてしまったのかもしれない。
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