第51話「いい加減泣くよ……!」
「来斗君のお部屋……」
俺の部屋に入った美咲は、感慨深そうに中を見回す。
「いや、何度も入ったことあるだろ……」
彼女が遊びに来たのは一度や二度ではない。
心愛を寝かせる時は基本俺のベッドなのだから、この部屋には何度も入っているし、一緒に過ごしてきた。
「そうだけど、そうじゃないっていうか……」
「ん……?」
「二人きりだし、改めて自分の気持ちを自覚してから初めて来たし……」
何やら、人差し指を合わせながらブツブツと言っている美咲。
何を言っているのか、全然聞き取れない。
「とりあえず、座ったらどうだ?」
立ったままというのもなんなので、いつも彼女が座っている位置を指さす。
「…………」
しかし、何か気に入らなかったようで、頬を膨らませて拗ねた目を向けられてしまった。
無言でジィッと俺を見てきている。
「どうした?」
「相変わらず、私のことなんて意に介してなさそう……」
また一人で何やらブツブツと言っている。
言いたいことがあるなら、直接言えばいいのに。
「何が不満なんだ?」
「別にいいですよ~。来斗君がそういう人だってことは、とっくにわかってますから……」
うん、全然いいと思っていない反応だな。
これみよがしに敬語だし。
今のやりとりで、俺が彼女を怒らせるようなことはなかったはずなんだが……?
相変わらず、時々訳がわからなくなる子だ。
「…………」
美咲はジッと俺を見てきており、座るつもりはないらしい。
仕方がないので、俺のほうが先にいつものところに座った。
すると――。
「よいしょっと……」
なぜか、肩がくっつくように美咲は隣に座ってきた。
「おい……?」
「何か問題ですか?」
どうして隣に座るんだ――そういう意味を込めて視線を向けると、キョトンとした表情で首を傾げられてしまった。
とぼけているのが丸わかりだ。
「目の前の、普段座っているところに座れよ……」
「こうやって宿題をしたほうが、お互い見やすくていいと思うもん」
確かに長机なので、隣でやったほうが見やすくてやりやすいのかもしれないけど……。
「別々にやればいいだけじゃ……?」
一緒にやるといっても、ただ二人で宿題をするだけであり、一緒に問題を解くわけではない。
こうして隣同士でやる必要はないと思うんだが……。
「来斗君に教えるのが、私の役目でもあるし」
しかし、美咲は引くつもりがないようだ。
俺がわからない問題は彼女が教えてくれているので、そのことを持ち出してきた。
「わからない時に教えてくれたらいいじゃないか」
学年トップ争いをする美咲に比べれば、俺は大分落ちてしまう。
しかし、学校の宿題はテストではないのだから、教科書などがあればある程度は調べてわかるものだ。
美咲に聞かないとわからないレベルの問題は、そうそうないんだけど……。
少なくとも、数分おきに発生するなどという頻度の高さはない。
「むぅ……」
俺の返しがよほど不満だったらしく、頬をパンパンに膨らませて不満をアピールしてくる。
何か隣同士がいい理由があるんだろうか?
そう思って見ていると――。
「あっ……!」
何かいい方法でも思いついた、と言わんばかりに美咲の表情が輝いた。
そして、俺の耳に口を寄せてくる。
「こうしてたほうが、お母様に付き合っていることを疑われないよ……?」
それはつまり、母さんが突然部屋に入ってくると言いたいのだろうか?
実際はノックをすると思うので、何か怪しまれるような場面に出くわすというわけはないのだが……。
というか――。
「誤解が解けるんなら、解いておきたいんだけどな」
母親に彼女がいると誤解されるのは厄介で、事あるごとに話題にされたり、連れてこいとか言われたりするだろう。
そうならないで済むなら、そうしたほうがいいと思ったんだけど――。
「いい加減、泣くよ……!」
なぜか、美咲の目に薄っすらと涙が溜まり始めていた。
「――っ!? い、いや、美咲が嫌とかそういうことじゃなくて、単純に母親に誤解されるのが厄介ってだけで……! ほら、さっきも根掘り葉掘り聞こうとしていただろ……!?」
美咲の反応が予想外だった俺は、慌ててフォローをする。
「別に美咲と付き合っていること自体が嫌とかってこともないから、安心してくれ……!」
続けてまくし立てるように言うと、美咲は上目遣いに俺を見てきた。
「ほんと……?」
「あぁ、もちろんだ。嫌なら嫌って、ちゃんと美咲に言うからな」
「んっ……」
どうやらわかってくれたようで、美咲はコクッと小さく頷いた。
傷つける気はいっさいなかったので、俺はホッと胸を撫で下ろす。
「…………」
美咲は無言で、俺の肩に頭を乗せてきた。
宿題をしようという話だったのだけど……甘えたくなったんだろう。
この行為は彼女が遊びに来るようになってから時々あったので、今更驚きもしない。
「悪かったな、誤解させるようなこと言って」
俺は謝りながら優しく彼女の頭を撫でる。
それにより、彼女の機嫌は直り――。
「いいよ、結果オーライだもん……」
なんだか、よくわからない返しをしてきたのだった。
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