第50話「彼氏のお部屋で」
「ふふ、この子のことをちゃんと見ててくれて嬉しいわ」
母さんは言葉通り、嬉しそうに頬を緩める。
温かい眼差しを向けられ、少々居心地が悪くなった。
「いつもよくして頂いていますので……」
美咲は照れくさそうに笑う。
その表情を見た母さんの瞳が、キラーンと光った。
うん、何か良くないことを思いついたな?
「たとえばどういうふうに?」
「母さん、やめてくれ」
ニマニマとしながら首を傾げた母さんを、俺はいち早く止める。
息子の恋愛事情を深く知ろうとしないでほしい。
ましてや相手は美咲なので、正直に全部話しかねないのだから。
「えっと……」
美咲は赤く染めた顔で、チラッと俺の顔を見てくる。
彼氏の母親を無視はできないのに、俺が止めたからどうしたらいいかわからなくなっているようだ。
「答えなくていいから」
とりあえず、机の下で繋いでいる手にギュッと力を込めておく。
もちろん、痛くない程度の力だ。
「あっ、はい……」
それによって、美咲は答えないことにしてくれたらしい。
「こら、来斗。邪魔しないでよ」
「邪魔するに決まってるでしょ。彼女と普段どうしているかとか、母親に知られるなんて恥ずかしいんだから」
不満そうな母さんに、俺は溜息を吐いて返す。
本当は美咲にいろいろと質問に答えてもらおうと思っていたが、よく考えると下手なことを言いかねない。
そうなったら余計困るわけで――。
「美咲、俺の部屋で宿題をやろう。母さん、心愛の面倒頼むよ」
このまま残るより部屋に行ったほうがいいと判断した俺は、美咲を連れて行くことにした。
「あらあら、親がいるってのに彼女さんと自分の部屋に行くだなんて、いったい何をするつもりなのかしら?」
「宿題って言ってるだろ……」
「宿題、ね?」
何やら意味深な様子で美咲に視線を向ける母さん。
釣られて俺も美咲に視線を戻すと――なぜか、彼女は顔を真っ赤にしながら俯いていた。
おいおい……。
「本当に、何をするつもりなのかしら?」
母さんはニヤニヤと笑みを浮かべながら俺に視線を戻してきた。
どう見ても、美咲の反応が宿題をするようには見えないからだろう。
かといって、俺は何も嘘を言っていないわけで……。
「やめてくれ、そんな態度取られたら誤解されるじゃないか……」
美咲の態度が急変した理由がわからない俺は、小声で美咲に注意する。
すると、美咲は熱っぽい視線を向けてきた。
「だって、来斗君のお部屋で二人きりになることって、今まであまりなかったから……」
普段は心愛がいるから二人きりにはならない。
あの子が寝ている時でも基本同じ部屋にはいるから、それで二人きりにはならないと思っているんだろう。
そんな中突然二人きりになることになったから、緊張でもしているんだろうか?
これは、突然部屋に連れて行こうとした俺が悪かったか……。
「ごめん、ここにいるか?」
「う、うぅん、来斗君のお部屋でいい……! あっ、ちがっ、来斗君のお部屋がいい……!」
わざわざ言い直して、食い気味に言ってくる美咲。
その様子を見ていた母さんが、またニマニマとし始めたことは言うまでもないだろう。
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