第49話「ノロケ」
「こんなものしかなくて、ごめんなさいね」
母さんは美咲にお茶とスナック菓子を出す。
このお菓子は、心愛のために買っておいたものだけど……まぁ、また買えばいいか。
「いえいえ、恐縮です……」
言葉通り、母さんを前にすると美咲は途端に縮こまってしまう。
やはり仮とはいえ、恋人の親を前にすると緊張するようだ。
俺も美咲の親を――特に父親を前にすると、緊張する自信がある。
正直、仮の関係でそういう事態に遭遇することは避けたい。
「そんなに緊張しなくていいわよ? 私は美咲ちゃんを歓迎しているから」
母さんはニコニコ笑顔で美咲を見つめる。
言葉だけでなく、本当に心から歓迎しているだろう。
美咲の見た目はアイドル顔負けにかわいいし、性格の良さや上品さも表情や仕草から窺える。
どう見ても息子に釣り合っていない素敵な子なので、親なら誰でも歓迎するはずだ。
「ありがとうございます……」
美咲はホッと安堵の息を吐きながら、笑みを浮かべる。
少し、喜んでいるように見えた。
そんな彼女の笑顔を見た、母さんは――。
「それで、来斗のどういうところが好きなの?」
踏み込んで大丈夫だと判断したらしく、初っ端から容赦のない質問をしてきた。
「ふぇっ!?」
おかげで、一瞬にして美咲の顔が真っ赤に染まってしまう。
「ほら、この子って他人を遠ざけてるでしょ? クラスメイトとかにもだいぶ冷たくしているようだし、どこを好きになったのかなって」
おかしい。
母さんはそのことを知らなかったはずだ。
先生――の口から伝わっていたとしても、今まで注意をされることはなかった。
母さんの性格的に、知っているなら言ってこないほうがおかしいのに……。
だから先程の俺も、母さんの前では美咲に親しみあるキャラを演じて、笑顔を浮かべたわけなのだし。
――先生ではなく、鈴峰さんか?
俺の学校の態度や近況を彼女から聞いていて、そのことを気付かれないよう注意してこなかったとか?
美咲の件も泳がされていたし、その可能性は高いかもしれない。
「あっ……その、確かに素っ気ないところはあるかもしれないのですけど……」
俺が考えごとをしていると、母さんの質問に答える美咲がチラッと視線を向けてくる。
目が合うと、彼女は照れくさそうな笑みを浮かべた。
そして、視線を母さんへと戻す。
「でも、口調からはわかりづらいだけで、私のことを気遣ってくれていますし、面倒見がいいなってところも沢山あって……。何度か私が困るようなことが起きた時も、助けてくれたんです。それに……二人きりの時は、結構優しくしてくれるところもあるので……」
美咲は照れ笑いを浮かべたまま、割かしスラスラと俺の好きな部分を言葉にした。
誰かに聞かれた時のために、予め考えていたんだろう。
時々言葉に間が空いているのは、単純に照れているだけだ。
恋人に見せるための、作り話とわかってはいても――こうも母親に言われてしまうと、背中が痒くなるような感覚に襲われた。
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