第47話「最悪の来客」
とりあえず、呼ばれているので玄関へと向かってみる。
そこには――
「ここここ、こんにちは……!」
――目をグルグルと回し、顔を赤く染めている美咲が立っていた。
俺を見るなり挨拶をしてきたのだけど、かなり動揺しているようだ。
母さんを前にして、緊張しているようにも見える。
「まじか……」
そう呟かずにはいられなかった。
さすがにこれは、頭が痛くなる。
「こんなにかわいい子が彼女だなんて、来斗も隅に置けないわね……!」
どうやら、既に母さんには自己紹介済みらしい。
大方、俺じゃなく母さんが出てきたことで、テンパって自分のことを『彼女』だと言ってしまったんだろう。
……最悪だ。
「美咲?」
「ご、ごめんなさい……!」
母さんの前なので笑顔で名前を呼ぶと、美咲はガバッと勢いよく頭を下げてきた。
言葉にしなくても、言いたいことがわかったらしい。
どうしてくれるんだ、まじで。
「謝らなくていいのよ? いつでも遊びに来てくれたらいいんだから。そんなことよりも、お昼はもう食べた?」
美咲に興味津々な母さんは、彼女を家に上げようと考えているようだ。
話をしたくて仕方がない、というくらいにウキウキしている。
「あっ、まだです……」
美咲が昼頃に来る時は、俺と心愛の昼ご飯を作ってくれている。
だから彼女も家では食べてこず、ここで一緒に食べているのだ。
しかし――ここは、正直に答えないでほしかった。
「じゃあ美咲ちゃんの分も作るから食べてね」
やはり自己紹介は終わっているようで、名前までも把握されている。
ここで本当は付き合っていない――と言ったところで、母さんは信じないだろう。
それどころか、彼女に恥をかかせる行為だということで、怒られる未来すら見える。
本当に困ったものだ。
「そ、それは申し訳ないので……!」
「いいのいいの。彼女さんがいることは知っていたのだけど、来斗が話してくれるのを待っていたのよね。でも、この子ってそういうの話さないでしょ? だから、美咲ちゃんのお話を聞きたいかなって」
やはり、近所に住むおばさんに見られたことで、母さんの耳には入っていたらしい。
俺が話すまで知らないふりをされていたとは……ボロを出すのを、待っていたんだろうな……。
「えっと、それは、その……」
美咲はチラッと、申し訳なさそうに俺の顔を見てくる。
俺の顔色を窺っているんだろう。
「上がってくれ……」
母さんに知られた以上、全て手遅れだ。
完全に乗り気になっているのだし、俺が美咲を追い返したら怒られてしまう。
何より彼女が帰ってしまうと、根掘り葉掘り聞かれるのが俺になってしまうため――美咲には、自分で責任を取ってもらうことにした。
……それにしても、なんで来たんだ……?