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第42話「ゴミを見るような目」

 胸が苦しい。

 見えない何かが、ギュッと私の胸を締め付けてくる。

 なんでこんなにも苦しいのか、よくわからない。


「海なんて、こなかったらよかった……」


 砂浜へと上がると、自然に口から漏れてしまう。

 海にこなければ、こんな嫌な思いをすることもなかった。

 来斗君の家で、心愛ちゃんと来斗君と三人で遊んでいたほうが、ずっと楽しかったと思う。


 氷華ちゃん――やっぱり、来斗君のことが好きなんだ。

 だから、普段だったら男の子に絶対しないスキンシップを彼にはしているし、笑顔も見せている。

 心の中では、彼女である私のことが気に入らないのかもしれない。


「どうしようかな……?」


 あのまま、二人と一緒にいたくはなかった。


 うぅん、違う。

 氷華ちゃんと、一緒にいたくないんだ。

 今のままだと、嫌な言葉を吐いちゃいそうになるから。


 だから、思わず逃げてしまった。


 お姉ちゃんたちのところに行って、心愛ちゃんに癒されたいけど……邪魔になってしまう気がする。

 心愛ちゃんはお姉ちゃんに懐いていて、お姉ちゃんと遊びたいようだから。


 気分の沈んでいる私が行くと、嫌な気持ちにさせるかもしれない。


 かといって、勝手に帰るわけにもいかないし――とりあえず、荷物を置いているところで休もう。

 そう思って、歩いている時だった。


「――ほら、言っただろ! 絶対、こうなるって!」


 やけに耳障りな男性の声が、耳に入ってきたのは。


 顔を上げると、もうすぐ荷物を置いているテントに着くというところで、二人のチャラそうな男性が私の進路を塞ぐように立っていた。


「どうしたんだい、男に振られちまったか?」

「酷いよなぁ、こんなかわいい子がいるのに、もう一人のほうとイチャイチャするなんてよ! 俺たちが慰めてあげるよ!」


 視線を感じていたからわかる。

 私たちを、ずっと見ていた人たちだ。

 私が一人になるのを待っていたらしい。


「結構です……」


 こういう時、付いて行ったらいけないことくらい、私でもわかっている。

 だから、方向を変えて離れようとしたのだけど――。


「まぁまぁ、そう言わずにさ!」

「ほら、おいしいものを奢ってあげるよ!」


 私を逃がさまいと、すぐにまた道を塞がれてしまった。

 それどころか、私の手を掴んでくる。


「放してください……!」


 咄嗟に、振り払う仕草をしながら、声をあげる。

 だけど、掴まれている力は強く、全然放してくれない。

 私が嫌がる声をあげることも想定していたようで、動揺もしていなかった。


「落ち着きなって。悪いようにはしないからさ」

「そうそう、気分転換に楽しい遊びをしようぜ」


 男性二人はニヤニヤとしたいやらしい表情で、私の顔や体を見てくる。


「いやっ、放して……!」

「はは、向こうに着いたら放してやるよ」


 私の空いていたもう片方の手までも掴み、両サイドから引っ張られてしまう。

 連れて行かれないよう踏ん張るものの、男性二人の力に勝てるはずもなく、私は引っ張られてしまっていた。

 それどころか、口まで手で塞がれてしまった。


 助けを求めるように周りを見ると、海から結構離れているとはいえ、明らかにこっちを見ている人たちが数人いた。


 だけど、目が合うと逸らされてしまう。


 まただ。

 また、誰も助けてくれない。


 どうして、いつもこんな目に遭わないといけないんだろう?

 私が、何かしたのかな?


 海でも、お祭りでも、私はただ、楽しみたいだけなのに――。


「――おい」

「へっ――うごっ!」


 突如、私を強引に引きずっていた片方の男性が、鈍い音と共に砂浜へとダイブした。

 背中を手で押さえており、とても痛そうに転がっている。


 反射的に、後ろを振り返ると――

「あんたら、俺の彼女に何してるんだ?」

 ――見知った男の子が、ゴミを見るような目で立っていた。

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