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第40話「私、幼馴染だもの」

 海に仰向けで浮かび、青空を見つめる。

 少し離れたところからは、家族連れやカップル、友人グループなどのはしゃぐ声が聞こえてくるが、俺の周りは静かだ。

 だから、のんびりできる――わけではない。


「「…………」」


 なんでこの二人、無言で見つめてきてるんだ……?


 美咲は、海に入って浮き輪のボートに掴まった状態で。

 鈴嶺さんは、脱力して浮き輪に身を任せながら、俺をジィーッと見つめてきている。


 正直、気まずいんだが……?


「何か用でもあるのか?」


 見つめられるのは嫌なので、声をかけてみる。


「いえ、特にないわ」

「うん、見てただけだから」


 いや、意味もなく見つめられても、困るんだが……?

 男がただボーッと海に浮かんでいるのを見て、何が楽しいのだろうか……。


「海って、何して遊ぶんだ?」


 このまま放っておくといつまでも見られていそうなので、別の方向に気を逸らさせる。


「何って……海で遊んだことないのかな?」


 美咲は、キョトンと不思議そうな表情で聞き返してきた。

 悪気はなく、単純に疑問だったのだろう。


「だいぶ昔はあるけど、幼かったからあまり記憶にないな。それ以降は、海に行ってないんだ」


 父さんが生きていた頃は、海に遊びに行ったこともある。

 だけど、毎年行っていたわけではなく、小学生の低学年くらいまでだった。

 あまり海は好きじゃない人だったんだろう。


 ましてや父さんが死んでからは、母さんが仕事で忙しくなってしまったし、心愛の面倒を見ないといけなくなったので、海に行く機会など丸っきりなくなった。


 確か最後に海に行ったのは、小学五年生の行事で海の学校だったが、あれは泳いではいないのでまた別だ。


「行かない人は、行かないものよ」

「いたっ……!」


 鈴嶺さんは美咲に近付き、おでこにデコピンを喰らわせた。

 それによって美咲はおでこを手で押さえ、恨めしそうに涙目で鈴嶺さんを見る。


 多分鈴嶺さんは、話題を考えろ、という意味でやったんだろう。

 なぜか俺の家の事情に詳しいようなので、触れたら駄目なものだと考えたようだ。


「海で遊ぶなら有名なのはサーフィンでしょうけど、波がないと無理ね。まぁ私は、波があっても無理だけど」

「……なんでドヤ顔?」


 自信満々に答えてくれた鈴嶺さんには悪いが、ドヤ顔をするのは違うと思う。

 空気を変えようとしてくれたのかもしれないが……この子、こんなんだったっけ……?


「というか、私たちに聞いても無駄よ。海には、遊びにこれなかったんだから」


 俺の疑問は華麗にスルーされ、どこか怒ったように呟く鈴嶺さん。

 彼女の場合、海に来たくてもこれなかったので、根に持っているんだろう。


「そんなにナンパがやばいのか?」

「歩いてれば、すぐに声をかけられるわね」

「まぁ……ちょっと、困るよね……」


 美咲が、言葉通り困ったように笑いながら鈴嶺さんの言葉に同意したので、本当にすぐ声をかけられるんだろう。

 中学生の頃から海に行けてないという話だったのに、凄いものだ。


 まぁ、将来的に絶対美人に育つから、今のうちに親しくしておこうという下心があったのかもしれないが。


「だから、白井君には感謝してる。こうして一緒に来てくれたおかげで、まだ男に声かけられてないから」


 鈴嶺さんは安心しきっているような、温かい笑みを向けてくる。

 彼女が学校以外で俺に見せる表情は、冷酷なものよりも、笑顔やいたずらっ子のような表情が多い。

 気は、許してくれているんだろう。


 そうじゃなければ、俺と一緒に海にこないだろうし、こうして水着姿で一緒にいることもない。


 とはいえ、だからってそれが恋愛的な意味を持つとも限らないわけで――美咲さん、そういう目を向けてくるのはやめてくれませんかね……?


 頬を小さく膨らませながら、拗ねたような目でジィーッと見つめてくる美咲に対し、俺は笑顔を返しておく。

 思い込みで見ているせいだ、と言ったのにわかってはもらえなかったようだ。


「氷華ちゃん、来斗君は私の彼氏だからね……?」

「美咲、ちょっと独占欲が強すぎない……?」


 疑う目ばかり向けられて、いい加減嫌になったんだろう。

 鈴嶺さんは呆れながら美咲の顔を見た。


 おそらく、彼女の中では今、戸惑いの感情が生まれているんじゃないだろうか?

 元々は俺と美咲が付き合っていないと確信を得ていた。

 それなのに、美咲は本当の彼女のように、女子が俺に関わるのを嫌がっている態度ばかり見せている。


 鈴嶺さんの中では、確信が揺らいでいてもおかしくはない。


 まぁ美咲が嫌がっているのは、単純にまじめだから偽彼氏でも不誠実は許せないとか、自分を守る存在がなくなるのが嫌だとか、そういう感じだろうけど。


「氷華ちゃんはかわいいんだから、心配にもなるでしょ……!」

「彼が私に興味を示すなら、とっくに示してるわよ」

「そんなのわからないじゃん……!」


 美咲はムキになったように否定する。

 いや、実際ムキになっているんだろう。

 幼馴染が魅力的でありすぎるがゆえに、どうしても不安になってしまうようだ。


 さて、どうしたものか……。


 本当の彼氏であれば、美咲が安心するように何か約束や根拠を示したほうがいいのかもしれないが――俺が、そこまでする必要はないと思う。

 信じられないと言うのなら、それも仕方がない。

 少なくとも俺は寄り添ったと思うし、本物のではないのだから、これ以上彼女を信じさせられるものもないのだから。


 美咲が疑ったりしてくるのなら、それを無くすのではなく、そういうものだと割り切って付き合っていくしかなさそうだ。


 そんなことを呑気に考えていると――

「わかるわよ。だって私、彼の幼馴染でもあるのよ?」

 ――とんでもない爆弾が、鈴嶺さんによって放り込まれた。


「……は?」

明日(2/22)は朝、昼、夕の三回更新でいこうと思います…!(忘れてなければ…!!)

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