第35話「美少女二人に挟まれて」
「はぁ……はぁ……」
日焼け止めを背中に塗り終えると、鈴嶺さんは大きく肩を揺らしながら息をしていた。
汗をかいているのは、暑さだけが原因ではないだろう。
手が触れるたびに逃げるように体を跳ねさせ、普段よりも高い声が漏れていたのだし。
さて――逃げる準備をするか……。
「ちょっと、トイレに――」
「あら、どこに行くつもりかしら?」
鈴嶺さんが我に返る前に離れて様子を見よう。
そう思ったのだけど、立ち上がった瞬間に鈴嶺さんに捕まってしまった。
我に返るのが早すぎる。
「えっと……」
「ふふ……覚悟は、できてるんでしょうね?」
素敵な笑顔で、プレッシャーをかけてくるクール美少女。
おかしいな、冷や汗が止まらないぞ……?
「ちゃんと塗ったじゃないか……」
「私は嫌がってたでしょ? それに、私の反応を見て楽しんでいたわよね?」
決して、そんなことはない。
美咲の時以上に刺激的だったため、直視できず目は逸らしていたのだから。
「誤解だ……俺はまじめに塗っていたんだよ。なっ、美咲?」
「えっ、どうして私に振るの……!?」
矛先が俺に向いていて安堵していた美咲に話を振ると、途端に慌て始めた。
鈴嶺さんを怒らせたのは美咲なんだから、責任は取ってもらいたい。
「美咲には、後でおしおきをしておく」
「えぇ!?」
どうやら、美咲は後回しらしい。
いったい何をされるのか、気になるが――美咲はブンブンと一生懸命首を左右に振っている。
美咲の鈴嶺さんに対する怒りは発散されてしまったため、いつも通りのポンコツに戻っているようだ。
正直、そこは好きにしてもらったらいいが……。
「俺は、どうされるんでしょうか……?」
未だに力強く俺の腕を握ってきている鈴嶺さんに、腰を低くして尋ねてみる。
すると――。
「前を、私が塗らせてもらうわ」
鈴嶺さんは、俺に対してやり返すつもりらしい。
「いや、前は自分で塗れるからいらないだろ……?」
「てか、彼女である私が前じゃ……?」
美咲と一緒に不満そうな目を鈴嶺さんに向ける。
しかし――。
「何か言ったかしら?」
有無を言わさない笑顔の圧力を向けられてしまった。
おかげで、美咲も黙り込んで俺の後ろに回り込む。
ちょっと、従順すぎないだろうか……?
「あらあら」
相変わらず笹川先生は、心愛の遊び相手をしながら俺たちのことを楽しそうに見ていた。
見た目的にてっきり二十半ばだと思っていたが、美咲から前に聞いた話によると、お姉さんである笹川先生は二十八歳らしい。
となると、俺たちが子供のように見えているんだろう。
これも、じゃれてるようにしか見えてないようだ。
「本当にやるつもりか……?」
「えぇ、おとなしくしていなさいよ」
鈴嶺さんは、俺が持っていた日焼け止めを取り、白い液体を手に出す。
そして、顔をほんのりと赤く染めながら、俺の首に手を添えてきた。
……くっ、確かにくすぐったい……。
「それじゃあ、背中に塗っていくね」
美咲も、同じように日焼け止めを手に取り、俺の背中に塗り始めた。
前と後ろから刺激が与えられ、くすぐったさをなんとか我慢する。
さすがに、美咲たちのように声を漏らすことはなかった。
周りからは視線を感じ、男どもが俺たちの行為に注目しているようだ。
美少女二人に挟まれている状況によって、嫉妬の視線が全身に突き刺さっている感覚がある。
「…………」
「いや、何を考えているんだ……?」
首から肩、腕へと塗り終わった鈴嶺さんが、俺の鎖骨部分に手を置きながら固まってしまった。
視線は、俺の胸で止まっている。
「ここも、塗らないといけないわね……。出てるんだから……」
「ちょっ、待っ!?」
てっきりそこは避けると思っていたのに、鈴嶺さんは容赦なく触れてきた。
「えっ、どうしたの……?」
俺の背中に塗っていた美咲は見えていないのか、それとも見ていなかったのかはわからないが、俺の声を聞いて状況を確認してくる。
「い、いや、なんでもない……」
だけど、俺は咄嗟に誤魔化してしまった。
言えるわけがない。
彼女じゃない女子に、あの部分を触られているなど。
鈴嶺さん、美咲が本当の彼女じゃないってわかっているからとはいえ、やりすぎだ……。
「……氷華ちゃん、意外と積極的……」
笹川先生が、ほんのりと顔を赤く染めながら俺たちをジッと見つめている。
彼女も、鈴嶺さんがここまでするとは思わなかったんだろう。
仮にも妹の彼氏に手を出しているんだから、注意してくれてもいいと思うが……。
「反応が薄い……」
鈴嶺さんは鈴嶺さんで、不服そうに手を滑らせてくる。
もうお腹部分を塗られているが、彼女たちみたいに声を漏らさなかったのが気に入らないようだ。
「それにしても、やっぱり男の子だよね……。私たちと違って、体がガチガチ……」
「えぇ、そうね。白井君、スポーツをしていないはずなのに体は引き締まっているし、ちゃんと腹筋も割れてる……」
なぜか突然、物珍しそうに俺の体を観察しながら、手で撫で始める美少女二人。
趣旨が変わっていないか……?
「心愛にだらしない体と思われないよう、筋トレをしてるだけだ……」
「相変わらず、妹愛が凄い……」
「シスコン」
美咲は仕方なさそうに笑っている感じだが、鈴嶺さんは吐き捨てるように言ってきた。
目の前にいるので、ジト目を向けられる。
今更だけど、顔が近いな……?
「妹をかわいがって何が悪い……」
「別に、悪いとは言ってないわよ」
まぁ確かに、シスコンって言われただけで、それが悪いとは言われてないのか……?
というか――。
「いつまで触ってるんだよ……?」
もうさすがに、塗り終わってるはずなんだが……?
「気にしなくていいわよ」
「うんうん、こういう機会滅多にないし」
今まで男子に触れる機会がなかった二人には、筋肉がそこそこついている男子の体は珍しいものなんだろう。
日焼け止めを塗られている時よりもくすぐったい。
「美咲は、いつでも機会あるでしょ?」
「ふぇっ!? そそそ、そうでもないよ……!」
鈴嶺さんにツッコまれると、美咲はわかりやすく慌て始めた。
後ろにいるので正確にはわからないが、多分声的に顔を赤く染めているだろう。
確かに鈴嶺さんの言う通り、付き合っているカップルなら触り放題でも不思議ではないのだけど……美咲がくっついてくる時は、いつも服を着ているからなぁ。
「――三人とも、さすがにそろそろ心愛ちゃんが待ちくたびれそうよ?」
結局、笹川先生に止められるまで、美咲と鈴嶺さんは俺の体を触るのをやめないのだった。
話が面白い、美咲たちがかわいいと思って頂けましたら、
評価(↓の☆☆☆☆☆)やブックマーク登録をして頂けますと幸いです(≧▽≦)♪