第33話「塗り合いっこ」
「――白井さん……?」
「あっ、えっと……すみません、心愛のことをお任せしちゃって」
笹川先生に声をかけられたことで我に返った俺は、心愛を抱き寄せながら目を逸らす。
しかし――。
「顔が赤い……」
「この男、年上好きか……」
最初からいた二名が、俺に対して冷たい批難の目を向けてきた。
「顔が赤いですね……。熱がありますか……?」
そんな中、笹川先生が俺に近寄ってきて、額に手を当ててきた。
もう片方の手は自分の額に当て、体温の確認を始める。
天然は、美咲だけじゃなかったようだ。
「お、お姉ちゃん、何をしてるの……!」
俺たちのことを見ていた美咲が、慌てたように体を割り込ませてくる。
おかげで、俺から引き剥がされた笹川先生が、砂浜に尻餅をついてしまう。
「ど、どうしたの、そんなに必死になって……?」
なぜ自分がどけられたのか笹川先生はわかっていないようで、戸惑っていた。
まぁ美咲としては、刺激が強すぎる体なのだから、俺に近付きすぎて間違いが起きるのを恐れたんだろうけど。
「その、白井君は美咲の彼氏なので、そういうのはあまりしないほうがいいかと……」
鈴嶺さんも直接的な言葉は避け、遠回しに笹川先生へ説明をする。
本当に、先程の行動は危なかったので、彼女たちが止めるのも仕方がない。
笹川先生のような魅力的で大人の女性に水着姿で迫られたら、誰だって心を持っていかれてしまう。
「美咲って、独占欲が強いのね……」
笹川先生は何を勘違いしたのか、困ったように笑いながらお尻に付いた砂を手で払った。
「せんせぇい、だいじょうぶぅ?」
心愛が俺の腕の中から出て、テテテッと笹川先生に近付いた。
「うん、大丈夫だよ。ありがとう、心配してくれて」
「えへへ」
笹川先生に頭を撫でられると、心愛はだらしなく頬を緩ませた。
本当に、笹川先生が大好きな子だ。
それはそれとして――。
「むぅ……」
美咲が頬を膨らませながら拗ねた目を向けてくるのだけど、先程のは俺が悪いのだろうか……?
完全に、受け身だったんだけどな……。
「むっつり」
挙句、鈴嶺さんまで俺の耳元で囁いてくる始末。
同級生の女子二人が、なぜか手厳しいんだが……。
「とりあえず、パラソルとかを借りに行きましょうか」
美咲たちが厳しい目を向けてくる中、笹川先生が優しい笑顔を向けてくれる。
心愛のためにいろいろと浮き輪は用意してくれたのだけど、パラソルとかは現地で借りると言っていた。
全員揃ったため、借りに行くのだろう。
「心愛、おいで」
「んっ……!」
呼ぶと、心愛は俺のほうにテテテッと走ってきて、両手を広げた。
俺は心愛を抱き上げると、そのまま笹川先生について行く。
パラソルなどを借りて、拠点を作ると――。
「日焼け止め、塗らないとね」
笹川先生が、日焼け止めを取り出した。
海は紫外線が強いので、後で泣かないで済むように、ちゃんと日焼け止めは塗っておかないといけない。
てっきり、女性陣は更衣室で塗ってくると思っていたが……。
「私と美空さんで塗り合うから、美咲と白井君で塗り合ってね」
そうとんでもないことを言ってきたのは、鈴嶺さんだった。
相変わらず、シレッと爆弾を放り込んできやがる。
「ななな、何言ってるの、氷華ちゃん!?」
「さすがに、女性同士で塗ったほうがいいと思うが……?」
顔を真っ赤にした美咲と一緒に、俺は反論をしておく。
さすがにこれは、俺たちが決めているラインを超えてしまうものだろう。
「塗り合うって言っても、手が届かない背中を塗るだけよ? 付き合っているなら、別にかまわないでしょ?」
ニマニマと、実に楽しそうに言ってくる鈴嶺さん。
わかってて言ってやがる。
「ここあはぁ?」
「心愛ちゃんは、私が塗ってあげるね」
無邪気な心愛が小首を傾げると、笹川先生が笑顔で抱き寄せた。
鈴嶺さんを止めようとしないし、俺たちに対しても口を出さないので、鈴嶺さんの考えに同意しているようだ。
「ほらほら、時間がもったいないから早くして」
そう言って、鈴嶺さんは自分の日焼け止めを美咲に渡してくる。
どうしたものか……。
チラッと美咲の顔を見ると、彼女もこちらを見たようで、バッチリと目が合ってしまった。
「~~~~~っ!」
美咲は何を想像したのか、また言葉にならない声をあげて悶え始める。
そんな彼女を横目に、鈴嶺さんは自身の腕に日焼け止めを塗り始め、笹川先生は心愛の腕に塗っていた。
鈴嶺さんが日焼け止めの予備を持っていたことを見るに、最初からこのつもりだったんだろう。
心愛に関しては、幼いから塗り残しがないように、笹川先生が塗ってくれているようだ。
さて、困ったぞ……。
「俺は心愛に後で塗ってもらうから、美咲は笹川先生に塗ってもらうといい」
優しい先生なら、妹が困っていれば塗ってくれるだろう。
問題は、心愛だ。
塗ったことがないから、うまく塗れない可能性が高い。
と、考えていると――。
「……いい、私が塗るから、来斗君も私に塗って……?」
顔を真っ赤に染めた美咲が、俺の手を取ってくるのだった。
……まじか?
話が面白い、美咲たちがかわいいと思って頂けましたら、
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