第31話「車内事故(?)」
「にぃに、ねぇね、おなかいたい……?」
俺と美咲を、心愛が心配そうに見てくる。
胸を押さえているのを、腹を押さえているのと同じように考えているんだろう。
「えっ、大丈夫ですか? どこか寄りましょうか?」
心愛の声に反応して、笹川先生も心配をしてくる。
相変わらず優しくて対応が早い。
それに比べて、鈴嶺さんといえば――。
「ふっ……」
意地悪な笑みを浮かべて、鼻で笑っていた。
俺たちが困っているのが、楽しいんだろう。
やっぱりこの子、素でSが入っている気がする。
「いえ、大丈夫です」
心配させるわけにはいかないので、俺は笑みを浮かべながら明るい声で返す。
「うん、私も大丈夫」
美咲も同じように笑みを浮かべる。
実際、体調には何も問題がないんだ。
若干傷を負ったのは、心なのだから。
正直、美咲のお姉さんが笹川先生だと知っていたら、この彼氏役は引き受けていなかったかもしれない。
「それなら、いいのですが……」
言葉とは裏腹に、笹川先生はまだ心配しているようだった。
ミラー越しに見える表情も、不安そうに見える。
「にぃに、ねぇね、だいじょうぶ……?」
心愛も、まだ心配をしていた。
無邪気で我が儘なところはあるが、ちゃんと他人を気遣える優しい子なのだ。
「大丈夫だから、安心して」
心愛を安心させるために、俺は心愛の頭を撫でた。
俺と心愛の間には美咲が座っているので、邪魔になって申し訳ないが、少し我慢してもらおう。
――そう思った時だった。
急ブレーキにより、俺のバランスが崩れたのは。
「「あっ……」」
思わず出た、俺と美咲の重なる声。
体勢が戻る反動によって、俺が美咲に倒れる形になってしまったのだ。
そして――俺の腕は、美咲の女性らしいある一部分を押しつぶすように当たっている。
最悪の体勢だ。
「~~~~~っ!」
美咲は顔を真っ赤にして、言葉にならない声をあげた。
見れば、目がグルグルと回っている。
よほど恥ずかしいようだ。
「わ、悪い……!」
俺は慌てて体を離した。
心愛に誓って言えるが、決してわざとやったわけじゃない。
「すみません、前の車が急ブレーキを踏んだので、私も踏んじゃいました……」
「美空さんは悪くないわ。歩行者信号がないから交差点の信号がいきなり黄色になって、前の車が慌ててブレーキを踏んだのよ」
何があったのかは、笹川先生と鈴嶺さんが教えてくれた。
どうやら、タイミングと運が悪かったようだ。
「…………」
美咲は胸を手で押さえながら、顔を赤くしたまま俯いてしまっている。
付き合っているとはいえ、仮なのだから今まで性的なことは一度もしていない。
純粋な彼女にとっては、ショックが大きかったんだろう。
「……毎日家に遊びに行ってたから、結構進んでるかと思ってたけど……この様子だと、まだまだのようね……」
「――っ!」
何やら、笹川先生がボソッと呟いたのだけど、それに反応して今度は鈴嶺さんが顔を真っ赤にした。
そして、美咲と同じように俯いてしまう。
いったい、何を呟いたのやら……。
もう、車内の空気は無茶苦茶だった。
気まずくて仕方がないし、変な熱があると思う。
「……?」
何もわかっていない心愛だけが、キョトンと不思議そうな表情で、俺と美咲の顔を交互に見ているのだった。
美咲、心愛ちゃんがかわいい、話が面白いと思って頂けましたら、
評価やブックマーク登録をして頂けますと幸いです(≧◇≦)