第30話「姉の想い」
「――美咲、苦しくないか……?」
「だ、大丈夫……」
現在、後部座席で俺と美咲はくっついて座っている。
お互い半袖なので、肌がピトッと触れており、なんだか気恥ずかしい。
家でくっついていたことくらいあるのに、こうも恥ずかしいのは――。
「仲睦まじいわね~」
この、楽しそうに助手席からニマニマと見てくる、鈴嶺さんのせいだ。
絶対楽しんでいる。
「にぃにとねぇね、なかよし……!」
心愛も、嬉しそうに頷いている。
この子の場合は素直に喜んでいるので、まだいいのだが……。
「氷華ちゃん、楽しそう……」
「そんなことないわよ?」
美咲の言葉に対して、ニヤッと笑いながら首を傾げる鈴嶺さん。
言葉と態度が合っていない。
「私としても、白井さんが美咲と仲良くしてくださっているのは、とても嬉しいです」
鈴嶺さんをジトーッと見ていると、笹川先生が笑顔で話しかけてきた。
やはり姉としては、妹のことが気になるんだろう。
「美咲は素敵な子なので、誰とでも仲良くしていますよ」
「えへへ……」
お姉さん相手だからわざわざ言葉にしたのだけど、美咲はだらしなく頬を緩めた。
学校で褒められまくっているくせによく照れるので、意外とお世辞に弱いタイプらしい。
まぁ俺のはお世辞ではなく、事実を言っただけなのだけど。
実際彼女は、学校でモテすぎて困っているくらい人気で、誰とでも仲良くできるのだから。
「白井さんの惚気るところを見られるなんて、貴重ですね」
「ただでさえ夏なのに、これ以上暑くするのはやめてほしいわ」
運転席と助手席から、それぞれ別の感情が向けられる。
笹川先生はニコニコ笑顔なのに、鈴嶺さんはジト目を向けてきていた。
おかしい。
さっきまでからかってきてたんだから、急に不機嫌にならなくていいと思うんだが……?
「別に、惚気たつもりはないのですが……」
とりあえず、本当に惚気たつもりはないので否定をしておく。
「あれを惚気と言わなかったら、なんだと言うのかしら?」
思うところがあるのか、笹川先生よりも先に鈴嶺さんが質問をしてきた。
口元がまたニヤッとなっているので、からかう気満々のようだ。
どうやら先程の反応も、不機嫌になったんじゃなく、単にわざとジト目を向けてきただけらしい。
「惚気じゃなくて、事実だよ。鈴嶺さんは、学校での美咲の人気を知ってるだろ?」
「たとえ事実だとしても、平然とそれを人前で言うのは、惚気というのよ」
「……そうなのか?」
友人がほぼいないので、そういった会話をしてこなかった俺は、美咲に尋ねてみた。
「う、う~ん、どうだろうね~?」
美咲は頬を赤く染めながら、気まずそうに目を逸らす。
いや、もうそれ、答えを言っているようなものじゃないか?
「本当に、惚気のつもりはなかったんだけどな……」
「惚気を言う人は、大抵自覚してないわよ」
そうなのか……。
でも、俺たちって本当は、付き合っているわけじゃないからな……。
口が裂けても、そんなこと言えないけど。
「来斗君って、直球で褒めてくれる性格してるから、普通の人が惚気るのとはちょっと違うかも……?」
一応、美咲がフォローをしてくれる。
それがフォローになっているのかは、怪しかったが。
「惚気るほどに仲がいいことは、素敵なことですよ」
俺が嫌がっているように見えたんだろう。
黙って聞いていた笹川先生が、優しい声でフォローをしてくれた。
だけど、やっぱり俺は惚気た扱いらしい。
「それに、私はこんな幸せそうな美咲を見られて、嬉しいんです。私のせいで、この子は恋に臆病になっていたところがありまして……白井さんとこうして付き合うことができて、ホッとしています」
ミラー越しに見える、笹川先生の優しい表情。
妹の幸せを、心の底から喜んでいるのがわかる。
そして――凄く、胸が痛くなった。
「…………」
美咲も心苦しいんだろう。
俺と同じで、胸に手を当てて、気まずそうに顔を逸らしている。
そんな俺たちを見ていた、鈴嶺さんは――
『自業自得よ』
――とでも言わんばかりのジト目を、俺たちに向けてきていた。
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