第25話「二人からのおねだり」
「――んっ……」
「あっ、起きたかな?」
心愛の声がして振り返ると、心愛が薄っすらと目を開けていた。
お昼寝の時間が終わったらしい。
「にぃに……」
「ん?」
「ねんね……」
――と思ったけど、まだ眠たいようだ。
寝起きは、中々起きられないよな。
「かわいすぎだよ……」
そんな心愛を見て、相変わらず美咲がメロメロになっている。
天使のような寝起きなので、仕方がない。
「ねぇね……!」
そして、美咲の存在に気付いた心愛が、ガバッと体を起こす。
美咲の声を聞いて、眠気が吹っ飛んだんだろう。
なぜか……兄として、美咲に負けた気がする。
「ふふ、おはよう、心愛ちゃん」
美咲は優しい笑顔で心愛の頭を撫でる。
ずるいよなぁ。
そんな笑顔を向けられたら、幼い子なんてすぐ懐くに決まっている。
「ねぇね、にぃにとなにしてたのぉ?」
「――っ」
心愛は、小首を傾げながら笑顔で美咲に尋ねる。
心愛としては、純粋な質問だったんだろう。
しかし、美咲は顔を赤くして息を呑んでしまった。
動揺しすぎだ。
心愛に変な勘違いをされるじゃないか……。
「んっ……?」
美咲の反応がおかしいため、心愛は再度小首を傾げる。
「話をしていただけだよ」
美咲が固まっているので、代わりに俺が答えた。
実際、嘘はついていない。
彼女は手遊びをしていたけど、その間雑談もしていたのだから。
「ここあも、おはなしするぅ!」
心愛は、美咲に対して両手を広げた。
この子は細かいことを気にしないので、美咲の変な反応に関してはもう忘れたらしい。
それよりも、美咲とお話がしたいようだ。
「抱っこかな?」
「いや、膝に座らせてほしいんだと思うぞ」
心愛が抱っこを求めるのは、移動の時がほとんどだ。
それ以外でこうやって両手を広げる場合は、膝の上に座らせて、という意味になる。
まぁ、勝手に座ってくることもあるので、心愛の気分次第なのだけど。
「それじゃあ、いくね」
美咲は一度立ち上がり、ベッドの上に座る心愛へと手を伸ばす。
落ちないようにしっかりと抱きしめると、そのまま慎重に座って、心愛をゆっくりと膝の上に下ろした。
美咲の膝に座れた心愛は、とてもご機嫌そうに頭を揺らし始める。
「座り心地、悪くない?」
「んっ……!」
心愛は満足そうに頷き、美咲の胸へと頭をもたれさせる。
それによってムニュッと形を変えてしまったので、見ていてバツが悪くなった。
逆に心愛は、無邪気に後頭部を押し付けている。
同級生に比べて大きめな美咲の胸は、心愛にとっていい枕になっているんだろう。
美咲も幼女が相手だからか気にしていないし、余計なことは言わないでおいたほうが良さそうだ。
「ねぇね~」
「な~に?」
「よんだだけ~!」
姉がいなかった心愛には、美咲が遊んでくれるのが嬉しくて仕方がないんだろう。
凄くご機嫌な時にしかしない遊びまでしだした。
「本当に、かわいすぎてやばいね……」
「連れて帰ったら駄目だぞ?」
あまりにも心愛にメロメロになっているので、一応忠告しておく。
「さすがにそこまではしないけど……」
そう言いながら、何かを言いたそうな目を美咲は向けてくる。
また無茶なことを言いそうだ。
「これからも、遊びに来ていいかな……?」
やっぱり、そうなるのか……。
美咲が心愛に会おうと思ったら、俺の家に来るしかないからな……。
よほど心愛のことを気に入ったようだ。
「いいよぉ!」
美咲は俺に聞いたんだけど、心愛が先に返事をしてしまう。
心愛自身、美咲のことを姉のように慕っているので、こうなるのは自然な流れだった。
「毎日、来てもいい?」
「んっ……!」
「いや、毎日は駄目だろ……」
嬉しそうに頷いた心愛には悪いが、さすがに毎日は困る。
いつか、母さんと鉢合わせされそうだ。
「駄目、かな……?」
「にぃに……?」
まるで結託したかのように、ウルウルとした瞳で見つめてくる二人。
こんなの、卑怯だ。
「美咲は勉強しないといけないだろ?」
「いつも予習復習しかしてないから、大丈夫だよ」
「…………」
予習復習だけで、鈴嶺さんに次ぐ学年二位……?
点数差も、ほとんどなかったような……?
鈴嶺さんがたまに美咲にきついのって、そういうところもありそうだな……。
彼女の場合、ほぼ毎日、遅くまで塾に行っているようだから。
「天才って、羨ましいな……」
「別に、そんなのじゃないけど……」
美咲は困ったように頬を指でかく。
予習復習だけで学年二位にいるなんて、十分天才だろ。
そんなことを考えていると――クイクイッと服を引っ張られた。
「にぃに、だめ……?」
俺が落ちていないとわかっている心愛が、近くまできて上目遣いで聞いてきたのだ。
自分の武器が何か、ちゃんと理解していて偉い。
「まぁ、美咲が来たいなら、いいんじゃないか……?」
結局、心愛のかわいさに負けて、駄目とは言えなかった。
だけど、それで話は終わらず――。
「ねぇね、ごはん、いっしょにたべる?」
と、心愛が聞いたことで、晩御飯まで美咲は食べていくことになった。
まぁ、彼女が料理を作ってくれるらしいが……一緒に買い物に行くことになったので、ご近所さんから母さんの耳に届きそうだ……。
話が面白い、心愛ちゃん、美咲がかわいいと思って頂けましたら、
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