第24話「甘えたがりの彼女」
「かわいいお部屋……」
俺の部屋に入った美咲の開口一番は、それだった。
部屋のカラーがピンク色で、猫を始めとした沢山のぬいぐるみが置いてあるからだろう。
家具も全て、心愛の好みに合わせている。
この子が産まれてから、俺の小遣いで少しずつ揃えたものだ。
「悪かったな、男らしい部屋じゃなくて」
きっと、美咲が俺の部屋に関して話す時、困るだろう。
女みたいな部屋だ、と周りから馬鹿にされるのが目に見えている。
さすがに、鈴嶺さんはそういうことで馬鹿にしたりはしないだろうが。
「うぅん、素敵なお部屋だと思う……。来斗君の、優しさと愛情を感じるから……」
部屋を見つめていた美咲は、トロンッとした熱を秘めた瞳になっており、頬を赤く染めている。
優しげに目を細める彼女は、今何を考えているのか。
部屋を見せた友人は美咲が初めてなので、経験と照らし合わすことができず、俺にはわからない。
ただ、まぁ――どうしてこういう部屋なのかは、心愛を知っている彼女には想像ができるんだろう。
「美咲って、なんでも好意的に捉えてくれるよな……」
普通の女子なら、気持ち悪がったって不思議じゃないのに。
「そうじゃないよ。私だって、合わないこととかあるし」
「でも、実際好意的に捉えてくれてるじゃないか」
「来斗君の場合は、ちゃんと優しさが見えるから……」
言ってて恥ずかしくなったのか、美咲は顔を逸らしてしまう。
見える横顔は、先程よりも赤く染まっていた。
「勘違いの可能性が高いぞ?」
「ふふ、それはないと思うなぁ」
いったいどこからその自信は来るのか。
鈴嶺さんを相手にするとポンコツになるくせに、不思議な子だ。
「とりあえず、テキトーに座ってくれ」
俺はそう言いながら、心愛をベッドに寝かせる。
スヤスヤと気持ちが良さそうに寝ていて、見ているだけで気分がいい。
「…………」
「いや、どこでも座ったらいいんだぞ?」
先程座るよう言ったのに、美咲は立ったまま俺を見つめていたので、再度似たことを伝える。
だけど、彼女は首を左右に振った。
「来斗君が座ってからでいいよ」
どうやら、俺が座るまで待っているらしい。
今度は何を狙っているんだか……。
立ったままでいられるのは居心地が悪いので、俺はベッドにもたれるようにして座った。
すると――。
「んっしょっと……」
肩がくっつく距離に、美咲は座ってきた。
というか、実際くっついている。
「近くないか……?」
「でも、これが恋人の距離感……」
美咲は俺から目を逸らしながら、自分の意図を伝えてくる。
恋人ならくっつくように座る――というのは、わかるのだが……。
「誰も見てないから、恋人のフリをする必要がないだろ……?」
心愛でさえ寝ているのだ。
わざわざ、恋人のフリをする必要性が感じられない。
「普段からしておかないと、咄嗟の時に出ちゃうよ……?」
「だからってここまでするのか……? 美咲は、嫌じゃないのかよ?」
「嫌だったら、自分からこんなことしないでしょ……」
美咲は、俺の肩に自分の頭を乗せてきた。
そして指も、恋人繋ぎのように絡めてきて――本当に、恋人のようだ。
なるほどな……美咲のような超が付く美少女にいつもこんなことされてたら、確かに惚れてしまう。
美咲が俺のことを好きじゃないとわかっているからこそ、俺はあえて意識しないようにしているが。
これ、他の奴なら普通に勘違いするんじゃないのか?
「…………」
美咲は、黙って手をニギニギとし始める。
彼女の顔を見てみると、視線は俺に向いておらず、繋いでいる手に向いていた。
気まずさを誤魔化すためなのか、それとも単純に遊んでいるだけなのか。
なんだか、手で甘えられている気がする。
「こういう姿を見せられたら、みんな信じるしかないかもな」
「えっ?」
「…………」
恋人のフリを練習している可能性を考慮して言ってみたんだが、美咲はキョトンとした表情を浮かべたので、その気はいっさいなかったらしい。
まじで遊んでいただけのようだ。
「美咲って、甘えん坊なのか?」
「そ、そういうの、本人に聞くの良くないと思います……」
美咲は顔を真っ赤に染めて、俯いてしまう。
言われる自覚はあったようだ。
「…………でも……来斗君みたいな、お兄ちゃんは欲しかったかも……」
それは、肯定と捉えていいのだろうか?
なんだか美咲は、心愛と重なるところがある。
心愛が拗ねると美咲のような反応をするし、俺の手で遊ぶのも好きだ。
もしかしたら心愛が大きくなると、美咲のようになるのかもしれない。
……いや、ないな。
心愛は大きくなったら、天真爛漫な子に育つ気がする。
少なくとも、美咲ほど周りに気を遣うことは無理だろう。
「俺なんかが兄になったら、困るぞ?」
「そんなことないよ。心愛ちゃん凄く幸せそうだもん」
美咲はそう言って、視線を心愛へと向ける。
確かに幸せそうだが――寝てるから、幸せそうな表情になってるだけなんだよなぁ……。
「まぁ、心愛には幸せになってほしいけどな……」
「来斗君が付いてるから、大丈夫だよ」
本当に、その自信はいったいどこから来るんだろう。
「――にぎにぎ……」
物足りなかったのか、また美咲は手で遊び始めた。
声にも出し始めたので、機嫌がいいんだろう。
たまに、指で俺の手にじゃれてくるので、少しくすぐったいが――美咲は楽しそうなので、好きにさせておくのだった。
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