第22話「無自覚」
「――すぅ……すぅ……」
食事を終えてお腹がいっぱいになった心愛は、俺たちが食べ終わるのを待った後、俺の膝に座って寝始めた。
夜はちゃんとベッドで寝るけど、お昼寝は俺の膝の上がいいらしい。
まじで天使だ。
「寝顔、かわいすぎる……」
心愛の寝顔には、美咲もメロメロになっている。
それほど、心愛の破壊力がやばいのだ。
「頬、ツンツンしてもいいのかな?」
「起きるから駄目だ」
「…………」
心愛のプニプニとした頬が気になるんだろう。
触ったら駄目と言われた美咲は、シュンと悲しそうに肩を落とす。
「起きてる時なら、前みたいに喜んで触らせてくれるさ」
「そっか、じゃあ起きるのを待たないと」
フォローすると、美咲は笑顔になってジッと心愛の寝顔を見つめ始めた。
まさか、起きるまでこのまま見つめるわけじゃないと思うが……。
心愛の寝顔は見ていて飽きないので、ずっとこのままかもしれない。
「オムライス、ありがとうな。とてもおいしかったよ」
いい機会なので、お昼のお礼と感想を伝えてみる。
「ふふ、よかった。心愛ちゃんも気に入ってくれたようだし」
「ふわとろオムライスなんて初めて食べたから、心愛にとっては衝撃だっただろうな。今度からオムライスは、あれしか食べないかもしれない」
食べている間、『おい、しい……!』ばかり言ってたし。
よほど気に入ったんだと思う。
「ふふ、それはないと思うけど……オムライスがメインなお店さんでああいうのを出してるから、今度場所を教えてあげよっか?」
美咲は親切心で言ってくれているのだろう。
だけど、俺は少し視線を逸らしながら口を開いた。
「あ~、悪い。うちはあまり外食とかできないんだ……」
せっかく教えてくれようとしているのに申し訳ないが、行けないのに聞くのも悪い。
「そっか……ごめんね……」
彼女は理由を聞いてこず、申し訳なさそうに謝ってきた。
別に、美咲が謝る必要はないんだが……。
「いや、教えてくれようとしたのは、素直に嬉しいよ。ありがとう」
気にされるのは嫌なので、お礼を伝えておく。
「……えっと」
それに対して何を思ったのか、美咲はソワソワと落ち着きなく口を開いた。
「もしよかったら、さっきのオムライスの作り方、教えるよ……?」
どうやら、先程の代案を考えてくれたようだ。
心愛がおねだりをしてきた時のために、教えてもらえるのは有難いけど――。
「美咲が心愛を喜ばせようと思って頑張って身に着けたものを、教えてもらうのもな……」
少し、気が引けてしまう。
「まじめだなぁ……」
俺を見ていた美咲は、仕方がなさそうに笑みを浮かべた。
彼女の言葉に対して、俺は思うところが出てくる。
「まさか、美咲にその言葉を言われる日が来るとは……思わなかったよ」
「私をなんだと思ってるの……?」
「まじめな奴」
それも、頭に『クソ』がつく。
さすがにそこまで言うと拗ねそうなので、言わないけど。
「……まじめは、いいことだと思います」
否定はできないと思ったのか、美咲は拗ねたように頬を膨らませながら、目を逸らしてしまう。
結局拗ねてしまったが、この様子を見るに自覚はあるらしい。
「悪いとは言ってないけど、美咲がそんな言い方をするってことは、自分で悪いと思っているんじゃないか?」
「そういういじわるも、良くないと思います」
さすがに、わざと言っていることはわかるようだ。
正直、美咲とこういうやりとりをするのは嫌いじゃない。
本人からしたら、たまったものじゃないのかもしれないが。
「まぁ実際、まじめはいいことだよ。まじめすぎるのは、考えものだけどな」
「私は、まじめすぎると言いたいのですか?」
「いや、それは考えすぎだ」
正直言えば、まじめすぎるとは思うけど、今のは美咲に皮肉を言ったわけじゃない。
無意識で言ってしまったものだ。
「来斗君は優しいけど……いじわるなところがあるから、皮肉で言ってそう」
美咲は拗ねた目でジッと俺を見つめてきながら、唇を尖らせていた。
なんだか、今回はやけに根に持たれている。
本人に『まじめすぎ』とは、言ってない気がするが……。
「美咲は非の打ち所がないくらい、完璧だよ」
とりあえず、ご機嫌を取っておくことにした。
心愛が目を覚ました時に美咲が拗ねていた場合、心愛を敵に回してしまうから。
しかし――。
「そ、そういうお世辞も、よくないと思います……!」
なぜか、怒られてしまった。
見れば、顔が結構赤くなっている。
「お世辞じゃないが……?」
「そういうの、無自覚に言うのもよくないと思います……!」
素直に思っていることだと伝えると、なぜか余計に怒られてしまった。
美咲は優しくてまじめで、勉強もできるいい奴だと思っているが――やっぱり、女って難しいのかもしれない……。
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