第21話「幼女は興味津々」
「ねぇね、なにつくってるのぉ?」
俺に抱っこされたまま、心愛はフライパンの中を頑張って見ようとする。
「オムライスだよ~」
美咲は、チキンライスを作り終えたフライパンとは別に、もう一つフライパンを準備しており、予熱が終わったフライパンへとバターを投じながら心愛に答えた。
「おむらいすぅ!?」
それが好物の一つである心愛は、敏感に反応する。
テンションが数段上がったのがわかった。
心愛は、かき混ぜ終わった玉子が入っているボールに視線を向け、美咲がボールを手に取るのをジッと見つめている。
「来斗君から、心愛ちゃんはオムライスが好きって聞いたからね、練習してきたんだよ」
そう言うと彼女は、かきまぜた玉子を、バターが溶けたフライパンへと落とす。
そして、左手でフライパンを前後に揺すりながら、箸で激しく玉子をかき混ぜ始めた。
「お~!」
パフォーマンスに見えているんだろう。
玉子をかき混ぜている美咲を見て、心愛がペチペチと拍手をし始めた。
美咲も心愛の拍手が嬉しいらしく、ニコニコとしながら玉子をかき混ぜていく。
やがて汁気がほとんど飛ぶと、今度は箸を使って玉子を扇型へと整え始める。
そのまま、両手の手首をぶつけることでフライパンをトントンと振り始め――玉子を、綺麗なラグビーボールの形へと変化させた。
美咲はその玉子をチキンライスの上へと乗せ――子供用のナイフを、心愛へと渡す。
「玉子の真ん中を、まっすぐ切ってみて」
「んっ……!」
笑顔を向けてくる美咲に対し、心愛は大きく頷いた。
そして、言われた通り玉子にナイフを入れると――トロトロの中身が顔を出す。
一瞬にしてトロトロの玉子が、チキンライスを覆ってしまったのだ。
彼女が作っていたのは、ふわとろオムライスだった。
「ふぁ……」
心愛は宝石を見つけたかのように、目をキラキラとさせながらオムライスを見つめている。
実際、こういうオムライスを見るのは初めてだろう。
俺が作るのは、チキンライスを玉子でくるむだけの普通のオムライスだからな。
「今から仕上げだよ」
美咲は心愛にニコッと笑みを向ける。
てっきり仕上がったのだと思ったのだけど――彼女は、ケチャップを手に取った。
そして、ふわとろオムライスにケチャップをかけていき――徐々に、とある絵が顔を出し始めた。
「ねこちゃん……!」
オムライスに描かれているものが何かわかった心愛は、とても嬉しそうに声を上げる。
心愛が言ったように、美咲は猫の絵を描いてくれていたのだ。
もちろん、本物の猫ではなく、猫のキャラクターのような絵だったが。
心愛を喜ばせるために、練習してきてくれたんだろう。
「猫ちゃん、好きなんだよね?」
「んっ、ここあね、ねこちゃんすきなんだよぉ」
「ふふ、よかった」
美咲は幸せそうに微笑み、俺へと視線を向けてくる。
「私たちのは、後でいいよね?」
「あぁ、そっちのほうが助かるな」
まずは心愛に食べさせる必要があるので、別に作ってくれるのはありがたい。
「にぃに……!」
「わかってるよ、ちょっと待ってね」
心愛に急かされたので、幼い子用の小さな椅子へと座らせる。
「…………」
心愛はジッと俺を見つめ、スプーンが出てくるのを待っているようだ。
「自分で食べる?」
「あ~ん」
スプーンを差し出して一応確認すると、心愛は口を大きく開けた。
食べさせろ、ということらしい。
美咲がいてもそこは変わらないようだ。
「それじゃあ、言うことがあるよね?」
「んっ、いただき、ます……!」
心愛はちゃんと両手を合わせて、食事の挨拶をした。
それに対して、美咲は――。
「どうぞ、召し上がってください」
とても優しい、素敵な笑みを返すのだった。
美咲がかわいい、心愛ちゃんが天使と思って頂けたら、
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