第178話「新たな爆弾」
「ママはどうしたの?」
ジッと俺たちを見つめてくる幼女に対し、腰を下ろして幼女の目線に合わせた美咲が、小首を傾げながら尋ねてみる。
すると、幼女は美咲に返事をすることはせず、指を咥えたままボーッとした表情で、美咲と同じように小首を傾げた。
「か、かわいい……!」
自分の真似をした幼女に対し、最近幼女成分に飢えていた(と、俺が勝手に思っている)美咲が目をハートにする。
その隣で、俺は幼女の顔をジッと見つめていた。
記憶にある髪色とは違うが、この髪型と、タレ目で若干ボーッとしてそうな顔付きに、見覚えがあるんだよな……。
多分どこかで一度、会ったことがあるんじゃないか……?
保育園で見かけるのは初めてなので、別の場所だとは思うが……。
「――ごめんなさい、うちの子が迷惑かけてしまって……」
モヤがかかった記憶をなんとか思い出そうとしていると、突然幼女の背後におっとりとした顔付きの――タレ目の美女が現れた。
左目の目尻の下には小さなほくろもあり、フワフワとした天然の金色の髪にパーマを当てて、緩やかなウェーブを描くロングヘアーの彼女から受ける印象は、若妻、という感じだ。
でも――――――俺たちと同じ、制服を着ている。
まじか……。
彼女を見た俺が思い描いた言葉は、それだった。
心愛を保育園に通わせるようになってから数年。
今まで保育園で会ったことがない幼女に、俺たちと同じ学園の制服に身を包みながらも、高校では一度も見かけたことがない美女……いや、美少女。
こんなの、状況証拠が揃いすぎていた。
道理で、見覚えがあるわけだよ……。
「…………」
俺が固まっていると、美咲が金髪美女の顔を無言で見つめる。
そして、チラッと盗み見るように、彼女の胸へと視線を向けた。
その後、自分の胸へと視線を向ける。
「うぅっ……」
何が言いたいのかわかるほどに、美咲は悔しそうな表情を浮かべた。
若干涙目である。
いや、美咲も学校の中ではトップクラスに大きいんだけど……目の前にいる金髪美女は笹川先生並だったので、同じ学校ということで意識した美咲が悔しがるのも、若干わからなくもない。
ただ……この場に鈴嶺さんがいたら多分、美咲に対してキレていたとは思う。
「あの……」
俺と美咲が別々の意味で固まっていると、もう一度金髪美女が声をかけてきた。
「あっ、えっと……」
美咲は言葉に困りながら、チラッと俺の顔を盗み見てくる。
突然現れた同じ学校の美少女に対して、どういう反応を取るのか見ようとしているのだろう。
「おはようございます。保護者の方が見えなかったのでどうしたのかと思いましたが、お姉さんがいらっしゃってよかったです」
俺は美咲と金髪美女に勘づかれないよう、見知らぬ人に接するように対応をした。
お姉さんと言ったのは、彼女が高校の制服を身に着けていることでこの幼女が娘ということはないし、かといって『うちの子』と言った時点で他人でもない。
何より、髪色は金色じゃなく黒色だから違うけれど、ツインテールという髪型とおっとりとした印象のあるタレ目は、記憶の中にいる子とよく似ている。
まず間違いなく、この幼女のお姉さんだろう。
一つ気になるのは、心愛を保育園の中に連れて行っていた笹川先生が戻ってきたのだけど、金髪美女と向かい合っている俺たちに気が付くと、とても気まずそうな表情をしたことだ。
なんなら、若干距離を取って俺たちの様子を窺っている。
何か、まずいことでもあるのだろうか?
もしかしなくても、鈴嶺さんが先に笹川先生にも伝えていたとか?
普通ならありえないが、笹川先生自身にも接点があり、巻き込まれる可能性があるとなれば、鈴嶺さんが伝えていてもおかしくはない。
そんな呑気に状況を観察していると――
「来斗君、だよね……?」
――向こうから、爆弾を放り投げてきたのだった。







