第177話「妹の変わりよう」
「にぃに、だっこ……!」
笹川先生が先に車で保育園に向かった後、俺たちも家を出ようとすると心愛が俺の前に回り込み、両手を大きく広げた。
最近思うようになったんだが、この子俺をタクシー代わりに思ってないよな?
「心愛ちゃん、たまには私が抱っこしてあげよっか?」
少し考えごとをしていると、俺以上に心愛に放っておかれている美咲が、ここで自分の株を上げようと心愛に媚を売り始めた。
うん、俺から心愛を取ろうとするなんて、いい度胸だな、美咲?
という思いを込めて美咲に視線を向けてみると、見事に目を逸らされる。
無意識かと思ったが、この子、わかっててやってるのか……!?
「んっ……」
俺と美咲の目だけの攻防に気付いていない心愛は、ニコッとかわいらしい笑みを美咲に向けた。
だから、美咲は心愛を抱っこしようと近付いたのだけど――
「にぃに、だっこ……!」
――心愛は、美咲じゃなくて俺を選んだ。
「――っ!?」
もはや無視とも取れるような心愛の華麗なスルーに、美咲は目を見開いてビックリする。
おそらく、先程美咲に笑顔を向けたのは、心愛なりの気遣いだったのだろう。
でも、俺に再度抱っこを求めたことで、美咲に対して『お前は用なしだ』と言っているようなものだった。
「こ、心愛ちゃんに、見捨てられた……!?」
「いや、まぁ……普段から抱っこするのは、俺の役目だからな……」
と、フォローを入れてみるが、ここ最近の心愛を見ていてわかる。
もうこの子の中で、美咲はかなり株を落としているんだということが。
まぁ主に、美咲が何かしたというわけではなく、身近に笹川先生がいることで、心愛が美咲と笹川先生を比べてしまうのだろう。
その上、美咲の行動パターンは、心愛よりも俺に怒られないようにする、というのが多いため、必然心愛からすれば自分が蔑ろにされているように感じる。
結果、心愛の中で美咲の優先順位が大きく下がった、というだけの話だ。
本人にとっては気の毒だが……多少自業自得な部分もあるので、なんとも言えない。
まぁ、間違いなく笹川先生が一緒に暮らしてなければ、このような事態にはならなかったのだが。
てか、俺も人のことを言ってられないんだよな。
このままだとまじで、俺まで心愛から見向きもされなくなる。
ただでさえ笹川先生がいる間は、見向きされなくなってきているのに。
「うぅ……」
「そんな泣きそうな顔しなくても、遊び相手をしてれば前みたいになるさ」
……その遊び相手になる、というのが笹川先生が居続ける以上、難しいのだが。
おそらく美咲もそのことには気が付いているだろう。
だからこそ、笹川先生がいなくなってからすぐに、心愛に取り入ろうとしたんだろうし。
――と、そんなやりとりがありながらも心愛を保育園に預けた直後のこと。
「……?」
俺たちが保育園を出ようとすると、初めて見る心愛くらいの年齢の幼女が、指をくわえながら俺たちを見上げていた。
あれ、この子……どこかで見たことがあるような、ないような……?







