第167話「夜は……」
おそらくスイッチが入っていることで、普段よりも大胆になっているのだろう。
それにしても、まさかここまでしてくるとは思っておらず、油断してしまった……。
――いや、違うな。
前にもこんなことがあった。
キスをするしないというやつで、俺の膝の上に座った際に逃げ場をなくされたことが。
やはりスイッチが入っていると、容赦なくこちらの動きを封じる手段に出るのだろう。
ある意味、行動力の塊だな……。
「…………」
美咲は足で俺の足を挟んだまま、至近距離からジッと俺の目を見つめてくる。
こちらが逃げられないように封じたものの、強引に自分からするつもりはないらしい。
俺の理性が利かなくなり、手を出すのを待っているんだろう。
そちらのほうが、俺に嫌われるリスクがないからな。
となれば、俺にも猶予が生まれることになる。
試しに、止めていた手を動かし、美咲の頭を優しくポンポンッとあやすように叩いてみた。
それを、何度も繰り返す。
「んっ……」
やがて、美咲の表情が緩み始める。
段々と目がトロンッと熱を帯びながら細くなっていき、意識を頭のほうへ向け始めたのがわかった。
美咲が喜んでいるのを見て取った俺は、叩くだけでなく先程と同じように優しく撫でる行動も追加する。
そうしていると、甘やかされるのが大好きな美咲は、再び俺の首元に自分の顔を押し付けてきた。
そしてスリスリと擦るように甘えてくるのだが、彼女の体から次第に力が抜けていくのを感じる。
手から順に上半身の力が抜けていった彼女の体は、すぐに下半身からも力を抜いてしまう。
それを待っていた俺は、美咲が油断している――というか、気を抜いているうちに足をサッと抜き取った。
「あっ……!」
当然美咲も気付くのだが、彼女が意識をはっきりとさせた時にはもう、俺の足は完全に抜けた後だった。
それにより、プクッと頬を膨らませて涙目で俺の目を見つめてくる。
「ずるい……!」
「別に何もずるくないだろ……?」
俺は何も卑怯な手を使っていないし、力を抜くように命令したわけでもない。
ただ彼女が勝手に、力を抜いただけなのだ。
「うぅ……!」
美咲は悔しそうにグリグリと顔を俺の首に押し付けてきた。
一瞬怒りのあまり噛まれないか心配になったが、さすがにそんなことをするような子ではない。
優しさでも、学校の女子たちの中でトップクラスに入る子なのだから。
「……夜は、こうはいかないもん……」
……まぁ、ムキにはなるようだけど。
どうやら俺たちの攻防はまだ続くらしい。
――夜までに沢山甘やかせば、満足してくれないだろうか……?







