第165話「わからせ?」
「さすがに、美咲のことだけを考えるってのは難しい……」
というか、無理だ。
俺は彼女に溺れるような人間にはなれない。
「いいよ、私頑張るから……」
「いや、そこは頑張らないでくれると助かるんだけど……?」
プクッと小さく頬を膨らませて不満げに目を細めた美咲に対し、俺は苦笑いを浮かべる。
ここは優しく説得をするしかないだろう。
強めに言ってしまえば、ムキになられる可能性が高い。
「彼女が彼氏さんに好かれるために頑張ることは、いいことだと思います」
しかし、俺の言葉が気に入らなかったらしき美咲は、敬語で主張をしてきた。
確かにその言葉だけを聞けば、美咲の主張は正しい。
むしろ多くの者たちが共感し、支持することだろう。
だが――その先に見据えているのが、彼氏を美咲という名の底なし沼に落とすということなのだから、また意味が変わってくるはずだ。
「彼氏である俺にとって嬉しいことではあるけど、やりすぎは困るよ。いろんな意味で」
勉強や仕事が手に付かなくなる状態に堕とされるのはもちろん、自分へ夢中にさせようと過激なことをされても困る。
絶世の美女とまで言えるほどの魅力的な女の子相手に、俺の理性がどこまで持つかなんて自分でさえわからないのだから。
少なくとも、昨日今日と美咲がしていることだけで、たいていの男の理性は簡単に吹き飛んでしまうだろう。
「大丈夫、来斗君の大きな器なら」
「俺を過信しすぎだ……」
なんでもかんでも俺が受け入れられると思ったら、大間違いだぞ……?
俺だって思春期の男子なんだからな。
「…………」
美咲は黙り込み、つぶらな瞳でジッと俺の顔を見つめてくる。
そして、視線を俺から逸らすように横へ向け、ニヤッと口角を吊り上げた。
まるで、『でもなんだかんだ言って、押し通せば受け入れてくれるくせに』とでも言いたげな感じで。
やはり、一度わからせないと駄目か?
「いつまでそうしてるの? 一緒に寝ようよ」
俺が悩んでいると、美咲は自身の隣をポンポンッと叩く。
寝転びながら甘えたいんだろう。
とりあえずここは素直に従って、機嫌を取っておくか。
美咲が今のままで困る人が出るわけでもないし、極論俺が正気を保ち続ければ弊害は何もないのだ。
だから急いで対処するのではなく、美咲に流されないよう我慢しつつ、何か策を考えるのが今できる最善だと思った。
まぁ美咲が寝るか風呂に入っているタイミングかで、鈴嶺さんには相談するが。
本当に、下手なことをすると取り返しが付かなさそうで怖いからな……。







