第162話「付き合い方」
……甘やかしてほしそうだなぁ……。
目の前で落ち着きなくチラチラと俺を見てくるかわいい彼女を前にし、どうするか悩んでしまう。
心愛に悪い影響を与えてしまったので甘やかすのは自重しようと思ったが、いきなり甘やかさなくなれば美咲も納得しないだろう。
かといって、次第に甘やかす頻度を減らそうにも、この甘えん坊になし崩しにされる未来が容易に見えた。
ここはいっそ、心を鬼にして拒絶の態度を取るか?
そう思って視線を逸らしてみた。
すると――
「……っ!」
――美咲は、ガーンとショックを受けてしまう。
「……っ! ……っ!」
そして、言葉にならない声を出して何やら涙目でアピールを始めた。
涙目になっているのは、甘やかしてもらえると期待したのに期待が外れたからだろうが、どうして言葉にならない声と身振りでアピールしてくるのだろうか?
見ていると心が痛いんだが?
まだ、いつものように文句を言ってきてくれたほうが耐えられるのに。
「ご飯を先に食べよう」
「――っ!」
見かねて声をかけると、美咲の表情がパァッと明るくなった。
多分俺の言葉を、『ご飯を食べたら甘やかす』と解釈したのだろう。
もう完全に、美咲の中で俺に甘やかされるのが生活の一部というか、生きがいになっているようだ。
別に求められるのは悪い気がしないというか、嬉しいのだが――幼い心愛に悪い影響を及ぼすのは困る。
今日のことだってあの様子を見るに、今後俺の言うことを聞かなくなる可能性だってあるのだから。
「……♪」
とはいえ、目の前で既にご機嫌な様子でご飯を食べている彼女に、後から甘やかさないとも言えない。
絶対根に持たれるし、駄々をこね始めるだろう。
挙句、母さんや笹川先生、下手をすると鈴嶺さんに泣きつく可能性だってある。
こういう時、いったいどういう付き合い方をしていくのが正解なんだ……?
初めての彼女ができて間もない俺には、それがわからなかった。
失敗をして学ぶ――にしては、失敗した時のリスクが高すぎるので避けたい。
なんせ、美咲の場合は下手なことをすればかなり傷ついてしまうだろうから。
引きずらない相手ならいろいろと試せるが、彼女の場合は下手に地雷を踏み抜こうものなら取り返しのつかないことになりそうで怖かった。
心愛にするように接しても、美咲と心愛では反応が全然違うというか、心愛を甘やかして一の反応があるとすれば、美咲の場合五の反応があるように見える。
それはおそらく、距離を取ろうとした場合も同じだろう。
心愛はああ見えて、俺から離れても平気なところがある。
保育園だってちゃんと通っているのだし、おそらく二日程度なら大丈夫だ。
しかし美咲は、ここ最近の様子を見ていると俺から離れて平気なようには見えなかった。
むしろ、なんとしてでも離れないようにする、という意思さえ感じる。
どう考えても、心愛に接するようなやり方では駄目だというのは明白だった。
一応、付き合いは長くて理解は深いみたいだし――鈴嶺さんに、相談してみるか……?
笹川先生は駄目だろうな。
あの人は完全に美咲の味方なので、俺が気付かない程度に遠回しで言いくるめられそうだから。
「――ふふ……数時間は帰ってこないだろうし、ベッドで甘え放題……♪」
美咲は、人の気も知らずウキウキ気分になっていた。
どうやらご飯は食べ終えたようで、俺が食べ終えるのを待っているらしい。
先に片付けや歯磨きをしないのは、俺と一緒にするつもりなんだろう。
彼女を見ていて一つ思ったのは――『美咲って、絶対性欲強いよな……』ということだった。







