第161話「距離感」
「――それじゃあ、来斗、美咲ちゃん、お留守番よろしくね」
美咲と共に昼食を食べていると、支度を終えた母さんが笑顔で言ってきた。
どうやら、笹川先生と心愛を連れて買いものに出かけるらしい。
おそらく、俺たちに気を遣ってのことなのだろうが――付き合わされる笹川先生が不憫で仕方がなかった。
「にぃに、ばいばい!」
まぁ、心愛は笹川先生とお出かけできるのが嬉しくてハイテンションになっているので、この子のことを思うとよかったのかもしれないが。
「気を付けるんだよ?」
「んっ……!」
心愛は笹川先生の腕に抱き着いたまま、笑顔でコクンッと頷く。
幸せそうな笑みを浮かべているので、かなり上機嫌だ。
「笹川先生、すみません」
母さんの思惑に付き合わされ、心愛の面倒も見ないといけない笹川先生に俺は謝る。
先生からすれば、せっかくの休日に何をしているんだ、という話だろう。
「いえいえ、お気になさらないでください。私も買いたいものがありましたし、心愛ちゃんたちとのお出かけは楽しいですから」
笹川先生は嫌な顔一つせず、多くの男を虜にしそうなほどの素敵な笑顔で大人の対応を見せてくれる。
実際心愛のことはかわいがってくれているので、嫌だということはないんだろう。
それでも、休日はゆっくりしたかったと思うが……。
家でぐうたらな人なら、特に。
「白井さん? 何か良くないことを考えておられませんか?」
「えっ……?」
俺は顔に出してしまったのか、笹川先生に笑顔で詰め寄られてしまう。
この人、昨日の一件があるからか、呼び方は戻っても距離感が近い気がする。
なんというか、少し遠慮がなくなっているような……?
後、笑顔なのに圧が凄い。
「お姉ちゃん、近い……!」
おとなしく見ていた美咲は、お互いの息がかかりそうなほどに俺へ近付いた笹川先生を引き離そうとする。
相変わらずの独占欲の強さだ。
まぁ、今のは仕方がないとも思うが。
なんせ、顔が至近距離まで近付いていたのだから。
「あらあら……」
「ふふ、美咲ちゃんはかわいいわね~」
必死になる美咲を見て、笹川先生は仕方なさそうに離れ、母さんがニコニコの笑顔になる。
元々美咲のことを気に入っていたので、俺に対して独占欲を見せる姿がかわいく見えるんだろう。
「それじゃあ、お若い二人の邪魔をしないようにそろそろ行きましょうか」
「――っ。そ、そうですね……」
母さんが笹川先生に声をかけると、一瞬笹川先生は息を呑んだ。
少し動揺をしているようだし、年齢のことを気にしたのだろう。
「もちろん、笹川先生もお若いですよ?」
意外にも笹川先生が年齢のことを気にしていたので、母さんは笑顔でフォローを入れた。
実際、二十八歳とのことなので、まだまだ若いほうだろう。
俺たちからすれば、まぁまぁ歳が離れているのだけど。
「…………」
なぜか、笹川先生が俺に対して物言いたげにジト目を向けてきた。
やはり、距離感が近付いた気がする。
とりあえず、見た目は二十前半のお姉さんにしか見えないと思っています、と心の中で念じながら笑顔を返しておいた。
言葉にしたら、非を認めるようなものだからだ。
今度こそ本当に、母さんたちは出かけてしまう。
すると――
「……♪」
――まだ食事中だというのに、美咲が甘えたそうにソワソワとしながら、上目遣いで俺を見てくるのだった。







