第157話「見境のない」
なぜこの子は、こうも危ない橋を渡りたがり――人の理性を、破壊しようとしてくるのか。
いったいどういうつもりなのかはわからないが、当然頷くわけにはいかない。
「母さんが帰ってきたら誤解されるだろ……」
「えっ、お背中を流すだけなのに……?」
俺の指摘に対し、美咲は不思議そうに首を傾げる。
なるほど、この子気付いていないパターンか。
「あのな、背中を流すってことは美咲も少なからず濡れるんだぞ……? 水着も持ってきていないのに、どうするつもりなんだ?」
美咲は俺の家に泊まる準備はしてきたけれど、水着は持ってきていないはずだ。
なんせ、それを持ってくる必要性がないのだから。
となれば、バスタオルを体に巻いてか、裸――ということになるのだが、どちらにせよ母さんにバレたら一発アウトだ。
ましてや、美咲が羞恥心に耐えられるとも思えない。
――いや、一緒に入るみたいなことを言われてはいるが。
「あっ……そ、そっか……」
美咲はやっと気が付いたようで、恥ずかしそうに自身の体に視線を向けてモジモジとし始める。
本当に、天然で抜けているところがある子だ。
よく今まで襲われなかったな……。
「それじゃあ、バスタオルで――」
「却下に決まってるだろ……!」
まさかバスタオルを選択すると思っていなかった俺は、少し強めに声を出してしまう。
しかし、それも仕方がないだろう。
この子、先程バスタオルが落ちて悶えることになったのを、もう忘れたのか……!?
と、言いたい気分なのだから。
「…………」
「そんな縋るような目をしたって駄目だ。母さんに見つかってややこしいことになるのは困るんだよ」
黙り込み、潤んだ瞳を上目遣いで向けてきた美咲を、俺は跳ね除ける。
母さんがまだ帰ってこないという確信があり、笹川先生もいないのであれば、美咲の好きにさせたかもしれない。
しかし、母さんはそろそろ帰ってきそうで、笹川先生もまた降りてくる可能性がある以上、背中を流してもらうわけにはいかなかった。
「私、彼女なのに……」
「彼女でもそこまでする子はそうそういないぞ」
ましてや、高校生という立場で。
そもそも、泊まって一緒に寝るってこと自体、高校生では珍しいはずだ。
それで我慢してもらうしかない。
「むぅ……」
「はいはい、もう風呂入ってくるから」
俺は頬を膨らませる美咲の頭を優しくポンッポンッと叩き、風呂場へと向かった。
そして、念のため鍵を掛けておく。
元々知っていた学校での美咲ならまずありえないが、今の美咲なら後から入って来る可能性があると思ったからだ。
本当に、付き合ってからというか、付き合い始める頃から別人みたいになっているからな……。
見境もなくなっているように見えるし。
かなり依存されているようだが……そんな彼女をかわいいと思いつつも、彼女の将来が心配になった。
まぁ、俺が離れなければいいだけの話なのかもしれないが……。
でも、同じ大学に行くなんていろんな理由で無理だしな……。
そんなことを考えながら風呂に入った俺なのだけど、風呂から出ると案の定母さんが帰って来ており、美咲と楽しそうに話をしているのだった。
ほら、やっぱりな。







