第144話「アクセル全開」
この子、アクセル踏みすぎじゃないか……!?
明らかに暴走車と化している美咲に対し、俺はそう思ってしまう。
もう彼女は誰かが止めるまで止まらない気がする。
それこそ、まるでブレーキが壊れているような感じだ。
「俺たち、付き合ったばかりだぞ……?」
「付き合い自体は、結構経ってるよ……?」
遠回しに『まだ早い』ということを伝えると、美咲は上目遣いで否定してきた。
正式に付き合ったのが最近であって、偽カップルの時間を入れれば付き合い自体は長い、と言いたいのだろう。
――いや、それでも一ヵ月経ってないんだけどな……!?
本当に大丈夫か、この子……!
「それに、私たちは……親公認の仲だから……誰も文句言わないよ……?」
んなわけあるか!
君の父親が知ったら怒鳴りこんでくるぞ!?
そう思うものの、美咲が俺と一緒に入りたがっているのは好意全開という感じなので、きつくは言えない。
何より、求められること自体は嬉しいのだから。
――その分、頭が痛い状況ではあるが。
というかこれ、ただでさえ埋められている外堀を、更に埋められようとしてないか?
なんなら、既成事実を作られる勢いだぞ?
最近ポンコツなところが目立つ彼女ではあるが、地頭はかなりいいので、むしろ計算でやっているのではないかと恐ろしくなる。
さすがに、そんなことはないと思うが……。
「笹川先生がお目付け役だってこと、忘れるなよ……?」
あくまで彼女がいるのは、美咲と俺が過ちを犯さないように監視するためだ。
まぁ結果的に逆効果になっていたり、俺たちが何かしてもあの人なら笑顔で受け入れてくれそうだったりするから、お目付け役を果たすことはなさそうだが。
「むぅ……」
俺が拒絶の姿勢を取っていると、美咲は頬を膨らませてグリグリと顔を俺の腕に押し付けてきた。
やっぱり、彼女自身が一緒に入りたかったのだろう。
彼氏というか、男としては美咲のような超絶美少女に誘われることはとても嬉しいのだろうけど、譲るわけにはいかない。
まだ責任を取れるような立場でもないのだし。
ほんとこれ、人によってはこのまま流されて美咲と一緒に入るんだろうな……。
俺も正直、心愛や笹川先生がいなかったら流されてしまったかもしれないし……。
「母さんが帰ってくる可能性も十分あるんだから、危ない橋は渡らないでおこう」
俺はそう言いながら、美咲の頭を優しく撫でてなだめる。
時間的に考えるとむしろ、ドンピシャで母さんが帰ってくる可能性があるのだ。
美咲を気に入っている母さんの場合逆に喜びそうな気もするのだけど、リスクは避けたかった。
「来斗君は、理性が強すぎるよ……」
「なんなら、ここ最近ずっと鍛えられてる気がするしな……」
主に美咲のおかげで。
この子、まじで俺が止めないと突き進みそうな勢いだからな……。
……学校始まったら大丈夫か、これ……?







