第141話「妹が懐く理由」
「――心愛ちゃん、本当にお姉ちゃんにベッタリだよね?」
俺の部屋でくつろぐ中、美咲は心愛の話をしてきた。
現在あの子は笹川先生と共に彼女が泊まっている部屋へ行っているのだが、笹川先生の後をついて歩き回っていたことを言っているのだろう。
しかし――。
「彼氏の部屋に入るなり、彼氏の膝の上に座って動こうとしない子が言えることじゃないと思うが……?」
美咲は向かい合うようにして、俺の膝に座っている。
おかげで身動きが取れない上に、大きな脂肪の塊が目の前にあって困っていた。
本人的には、お互いの顔を見れるこの体勢が好きなようだが……。
「彼女だから、何も問題はないもん」
もう邪魔をする人は誰もいない――ということで、美咲はドヤ顔を俺に向けてくる。
甘え放題の環境に調子に乗っているのだろう。
「……♪」
ソッと彼女の頬に手を添えると、嬉しそうに俺の手に頬を擦り付けてきた。
絶世の美女と呼ばれているだけあって、本当にかわいいと思う。
確かに鈴嶺さんの言う通り、甘えん坊の彼女と俺は相性がいいのだろう。
「心愛の件だけど、多分あの子は笹川先生に母親の姿を重ねてるんだと思う」
リラックスしている彼女に、俺は心愛と笹川先生について話し始める。
「どういうこと……? 来斗君のお母様は、元気だよね……?」
俺の言った言葉の意味が理解できなかった美咲は、不思議そうに俺の目を見つめてくる。
「母さんは俺たちを養うために、仕事を頑張ってくれてるからさ。心愛は幼いから寝るのが早くて、母さんが仕事から帰ってきた時には寝ていることがほとんどだ。朝起きた時には母さんが仕事に行っていることが多いし、それで休日しか顔を合わせる機会がなくて――それも、週に一日だけだからな」
当然心愛も母さんのことを母親だとは認識しているが、ほとんど顔を合わせないせいで純粋に母親としては見られていない感じがする。
いつも母さんではなく俺に甘えるのも、身近にいる存在が俺だからだろう。
「それで、保育園でよく顔を合わせるお姉ちゃんを――かぁ……」
「笹川先生は優しいし、母性に溢れている感じがするからな。心愛が懐くのも無理はないよ」
母親と会えない寂しさを笹川先生で埋めていたのだろう。
あの人が園児の中で心愛だけを特別扱いしているわけではないが、それでも優しく甘やかしてくれる彼女を心愛が母親のように見ても無理はない。
年齢も、心愛からすれば母さんより笹川先生のほうが母親のようだろうし。
「お姉ちゃんも、同じかもね……」
心愛のことを思い浮かべていると、美咲は何やら意味深なことを呟いた。







