第140話「やはりお姉さんは強い」
「…………」
美咲は頬を膨らませながらも、黙り込んで笹川先生の言葉に従う。
考える邪魔かと思って彼女の頭から手を避けようとしたら、『まだ撫でて!』と言わんばかりに手を抑えられた。
拗ねているのに甘えたい気持ちは変わらないようだ。
彼女は俺に頭を撫でられながら、黙って思考を巡らせる。
そして――何かに気が付いたように、目を大きく見開いた。
やっと状況を理解したんだろう。
「お姉ちゃんが、お泊まり……それって……」
美咲は期待したように俺の顔を見上げてくる。
本当に、現金な子というか、自分の欲求に素直というか……。
「俺が何言っても、心愛は笹川先生から離れないだろうからな」
兄としては悲しいことではあるが、心愛は笹川先生がいる場合彼女にベッタリだ。
当然、一緒に寝るのもお風呂に入るのも笹川先生を選ぶだろう。
それでどうなるかというと、笹川先生と俺が一緒に寝られるはずもないので、俺はフリーとなり――美咲の相手をすることができるというわけだ。
元々この辺は、美咲も理解していたはずなんだけどな……。
だからこそ、俺と心愛を笹川先生の家に連れていこうとしていたわけなのだし。
……まぁもちろん、だからといって美咲と一緒にお風呂に入れるわけではないのだが。
「お姉ちゃん、泊まっていいよ……!」
全てを理解した美咲は、先程までとは打って変わって満面の笑みで姉を歓迎した。
面白いほどの手の平返しに、さすがの笹川先生も苦笑いを浮かべる。
逆に心愛は、満足そうにウンウンと頷いた。
ある意味美咲は、命拾いしたようだ。
これで心愛の好感度は下がらずに済んだだろう。
むしろ、話がわかる姉として評価が上がった可能性もある。
「部屋は空いているところがありますので、そちらに案内します」
「そして、私は来斗君のお部屋だよね?」
俺が笹川先生に笑顔で話すと、間髪容れず美咲が確認をしてきた。
姉の前で言質を取るつもりなのだろう。
いっそのこと、笹川先生と美咲を同じ部屋にしてもいいのだけど、さすがにそれは美咲と心愛から恨まれそうなのでやめておく。
「笹川先生さえ問題なければ」
「私は白井さんのことを信頼しておりますし、妹のことを任せられる御方だと思っておりますので、何も問題はありません。父から言われたのも、家に泊まることだけですので、お部屋のことは言われていませんし」
まぁここまで導いた張本人なのだから、当然そう答えるよな。
美咲父は俺と美咲の抑制のために笹川先生を寄越したのだが、完全に逆効果だった。
……美咲母が美咲父の電話を見逃したのは、こうなると確信していたのだろう。







