第138話「耳を疑う言葉」
「――美咲が寝る部屋は、空き部屋でいいか」
家に着いた俺は、美咲が泊まれるように持ってきたキャリーバッグを手に持ちながら、独り言を呟く。
ちなみに、心愛はまだ車の中にいて、笹川先生の腕の中だ。
車が着くなり、俺ではなく笹川先生に即座に抱っこを求めたからなのだけど、その時笹川先生のスマホに着信があったことで、今彼女は車の中で誰かと話している。
そして心愛は、せっかく笹川先生に抱っこされたのだから当然離れる気はなく、俺が抱っこしようとしても嫌がり、笹川先生がいいと言うので彼女に預けていた。
なお、俺が敗北気分を味わったのは、言うまでもないだろう。
……いや、まぁ……笹川先生に勝てるなんて、微塵も思っていないが。
「えっ、来斗君のお部屋じゃないの……!?」
俺の独り言を聞き取った美咲は、ショックを受けたように俺の顔を見上げてくる。
なんとなくわかってはいたが、一緒に寝るつもりだったらしい。
「まじめに言うけどさ、許されるわけないだろ……?」
一緒に寝たなんて聞いた日には、美咲の父親が乗り込んできかねない。
あの人は家族を敵に回したくなくて、百歩譲ってお泊まりだけは許してくれた感じなのだし。
「一緒に寝ることは、お泊まりする時点でわかると思います……!」
納得がいかなかったらしい美咲は、右手を上げてアピールをしてくる。
しかし、敬語になっていることから、自分の分の悪さは自覚しているらしい。
これは周りがどうこうではなく、俺自体を頷かせないと美咲の要求が通らないからだ。
そして、こういう時の俺がなかなか譲らないことは、これまでのことで美咲も十分理解している――ということだった。
「まぁ可能性としては考えているだろうけど、高校生の男女が一緒に寝て間違いが起こったら困るから、親は別々で寝させるつもりでいると思うぞ?」
いくら母さんでも一緒に寝るのは認めないだろうし、美咲の両親も高校卒業をするまでは待ってくれと言うだろう。
何より、心愛がいるのでまさか三人で寝たりしないだろう――という心理もあると思っている。
「私、彼女……!」
「いや、それは関係ないから」
どちらかというと、年齢や学生というのが問題なのだし。
美咲は一度俺のベッドに忍び込んできたくらいだし、一緒に寝たい気持ちがあるのはわかる。
だけど、夏休みの間だけとはいえ、こうして俺の家で暮らすようになったのだったら、線引きはしないといけない。
間違っても、過ちを犯すわけにはいかないのだから。
美咲も、自分の魅力をちゃんとわかってほしい。
そんなことを思っていると――。
「あっ、白井さん……先程、父から電話があったのですが……私も、泊まっても大丈夫でしょうか……?」
後から心愛と一緒に家に入ってきた笹川先生が、耳を疑うようなことを聞いてきた。







