第137話「いい仲裁方法」
「――ふふ♪」
笹川先生の車で俺の家を目指す中、俺と一緒に後部座席に座っている美咲はご機嫌そうに笑みを零した。
「嬉しそうだな?」
「だって、来斗君の家にお泊りだもん♪」
緩みきった顔でいっさい取り繕わず言ってくる美咲。
相変わらずの甘えん坊具合だ。
「ごめんなさい、白井さん。妹が我が儘を言ってしまって……」
俺と美咲が話していると、運転をしてくれていた笹川先生が謝ってきた。
常識人の彼女からしたら、妹が無茶を言って俺に迷惑をかけているように見えてしまうんだろう。
まぁ、この辺は人それぞれ感じ方は違うと思うけど……。
「心配しないでください。彼女が一緒にいたいと言ってくれるのは、彼氏冥利に尽きますので」
美咲のことはかなり甘えん坊だな、とは思うが、求められることを嫌だと思うことはない。
むしろ嬉しいし、かわいいと思うのだ。
あまり我が儘になってしまうと困る、というのは確かにあるかもしれないが、心愛を優先する俺の気持ちにはちゃんと理解を示してくれているのだし、他の人に迷惑がかからない以上は好きにさせたいと思う。
「来斗君は優しくて懐が広い人なの」
美咲は姉に邪魔されたくないと思っているようで、唇を尖らせて拗ね気味に返した。
心愛が寝ているからいいけれど、もし起きてたら、心愛の中で美咲の評価は少し下がるところだったな。
笹川先生が大好きな心愛からすると、笹川先生に敵意を向ける人間のことはよく思わないのだから。
……それを美咲に伝えたら、笹川先生に敵対心を抱くのをやめるか?
――と一瞬考えたが、美咲の思考は俺も読めないことがあるので、思わぬ勘違いをする可能性がある。
だから、下手にいらないことは言わないほうがいい。
「その優しさに甘えていると、愛想を尽かされると思うなぁ」
「はぅっ……!」
姉からの容赦ない一言に、美咲は苦しそうに胸を手で押さえた。
これだけダメージを受けているのは、本人も自覚しているのだろう。
あと、なにげに笹川先生も妹にちょっと容赦ないな。
まぁ妹のことを思っての発言だろうけど。
「……もうご飯作ってあげない」
意地悪には意地悪を、ということなのだろう。
美咲は笹川先生のダメージになることを呟いた。
「そういうのは印象悪いからね……!?」
美咲の手料理が食べられないのは、割と本気で困るのだろう。
笹川先生は焦りを見せながら言い返した。
それにより、美咲はニコッとかわいらしい笑みを浮かべる。
「先にいじわるを言ったのはお姉ちゃんだから、来斗君は気にしないもん。それに、お姉ちゃんもそろそろ自分でご飯作れるようになったほうがいいと思う」
美咲の言っていることは間違っていない。
だけど、俺は気にしなくても心愛は気にするぞ?
それと、せっかく大好きな笹川先生が自分の家でご飯を食べてくれるようになったのに、美咲のせいで先生がこなくなったら絶対心愛に恨まれるからな?
――と心の中で思ったが、心愛は寝ているのでわざわざ言わなくていいだろう。
その代わり――
「姉妹喧嘩は、好きじゃないな」
――笹川先生だけを庇ったと思われずに、美咲がおとなしくなる言葉が思いついたので、呟いておいた。
それにより、途端に美咲はおとなしくなり、俺の顔色を窺い始めたので、頭を撫でて甘やかしておくのだった。