第136話「話し合った結果」
「い、いや、それは話が別だろ……!?」
娘のとんでもない発言に、美咲父は目をクワッと剥きながら止めにかかる。
しかし――。
「ん~、いいんじゃないかしら?」
美咲母のほうが、意外にもOKを出してしまった。
「母さん!?」
まさか母親が頷くと思っていなかった美咲父は、驚いたように美咲母を見る。
……うん、俺もビックリだよ。
「美咲の顔を見る限り、駄目って言っても聞かないと思うし、美空や氷華ちゃんまで推す男の子なら、私はいいと思うの」
さすが美咲のお母さんだけあって、美咲のことをよくわかっている。
現在の美咲はニコニコととても嬉しそうにしており、自分の要求が通ると信じ切っているように見えた。
この状態の彼女に駄目と言っても、中々退かないだろう。
それこそ、俺の部屋でキスをするかどうかでかなり粘られたように、頷くまで粘り続けるはずだ。
それがわかっているから、美咲母は早々に折れたらしい。
まぁ、鈴嶺さんたちの推薦がかなり大きいようだが。
「だけど、まだ学生だぞ!? それなのに異性の家にお泊りだなんて……!」
「来斗君は誠実でまじめなようだし、大丈夫だと思うわ。幼い妹さんも一緒にいるわけだし。それに――」
美咲母は、そこで一度言葉を止め、俺のほうに視線を向けてくる。
そして、ニコッと笑みを浮かべて再度口を開くと。
「――責任を取ってくれるなら、好きにさせてあげたほうがいいと思うわ」
落ち着いた口調で、俺たちを後押ししてくれた。
それなのに――優しい笑顔なはずなのに、なぜか俺は口を開くのも憚られるようなプレッシャーを感じる。
多分、『そこまで許してやるんだから、責任取らなかったら許さないぞ?』と遠回しに言われたのだろう。
やっぱり、この家で一番怖いのはお母さんだ。
「えぇ、彼はちゃんと責任を取ると思うわ」
黙ってやりとりを聞いていた鈴嶺さんが、ニヤッと笑みを浮かべながら意地悪な目で俺を見てくる。
美咲から俺の家で何をしているか大方のことを聞いているため、この状況を面白がっているようだ。
「私も大丈夫だと思う。何かあっても、白井さんなら責任を取ってくれると思うから」
その上、笹川先生も賛成派のようだ。
常識人の彼女なら止める側に付くと思ったのだが、実の父親に対して怒りを覚えているようだし、妹の意見を尊重したいというのもあって、美咲側に付いているのかもしれない。
うん、さすがにこの展開は予想外だな……。
「き、君は困るだろ……!? こんなこと急に言われて……!」
周りがみんな賛成派だったことで、美咲父はあろうことか俺を味方に付けようとする。
この状況で美咲をどうしても止めたいなら、そうするしかないのもわかるが――
「来斗君は、お母さんたちがいいって言ったらいいよって言ってくれてるから」
――他人を気遣える美咲が、先に俺のほうに確認をしていないはずがないのだ。
だから俺は、美咲父の望むような答えは返せなかった。
まぁ俺のほうから、許可が下りれば泊まっていいと言ったのだけど……。
まさか、本当に許可が下りるなんて思わないじゃないか。
この後は、既に周りが敵と化して立場が弱くなっていた美咲父はもう何も言えなくなってしまい、俺が一応母さんへ確認を取ることになったのだが――予想通り、即答でOKが出てしまった。
それにより、美咲は夏休みの間俺の家に泊まることが決まり、彼女の提案で笹川先生もご飯を食べるために仕事帰り俺の家に寄ることが決まるという、とんでもないことになるのだった。
――笹川先生が俺の家で食事をするのは、十中八九心愛のことを笹川先生に任せて、美咲が俺に甘えるためだろうけど。
本当、欲望に正直な彼女だ。