第134話「素直過ぎる幼馴染」
「な、なんだ……?」
女性陣から責める視線を向けられた美咲父は、戸惑いながら娘たちを見る。
「お父さん、後でしっかりお話をしましょう」
最初に口を開いたのは、笹川先生。
おしとやかに笑みを浮かべているにもかかわらず、全身から不思議なプレッシャーを感じる。
「もう私、来斗君のお家の子になる」
姉に続くように、ここぞとばかりに口を開く美咲。
しれっと、自分の願望を織り交ぜていた。
「来斗君たちが帰った後、楽しみにしていてね?」
最後に口を開いたのは、美咲母。
とても素敵な笑顔だが、笹川先生に引けを取らないプレッシャーだ。
笹川先生の笑顔でプレッシャーを放つスタイルは、母親譲りらしい。
「ひょ、氷華ちゃん……!?」
殺気とも取れる怒気を放つ彼女たちを前にした美咲父は、助けを求めるように鈴嶺さんを見た。
しかし、彼女は――
「自業自得」
――美咲たち側なので、当然助けてもらえなかった。
「きゃっきゃっ!」
そして、困る美咲父を前にし、心愛は相変わらず楽しそうにパチパチと両手を叩いている。
強い子に育っていて、お兄ちゃんは複雑だよ。
もちろん、こんな重い空気の中では俺も迂闊な発言はできず、黙って静観させてもらう。
「まぁ、答えるわ」
そんな中、仕方がなさそうに鈴嶺さんは口を開いた。
まさか答えるとは思わなかったので、俺たちは驚いたように鈴嶺さんを見る。
クールな彼女は向けられる視線を気にしておらず、チラッと俺の顔を見てきた。
「確かに、彼が私に告白をしてきていたら、私は付き合うことを前向きに検討したと思う」
「氷華ちゃん!?」
幼馴染が発した言葉に、美咲は凄い食い付きを見せる。
まぁ、当然といえば当然だが……。
嘘は吐かないと聞いてはいたけれど、まさかここまで正直に話すとは……。
「当たり前でしょ? 自分が付き合ってもいいと思えるような相手じゃないのに、あなたに勧めるはずがないじゃない」
責めるような目を向けてくる美咲に対し、鈴嶺さんは呆れ気味に返した。
確かに、それはその通りなんだろうけど……。
人間の感情は、そんな簡単に割り切れるものじゃないと思うんだが……?
当たり前のことではあるが、仲のいい人に勧めるなら、自分がいいと思ったものを勧めるはずだ。
しかし、恋愛面においては、自分がいいと思った相手は他の人に取られたくないと思うんじゃないだろうか?
他の人に勧めれば、勧めた相手にその人を取られてしまう可能性があるのだから。
……まぁその辺が、鈴嶺さんが意味深に言っていることのヒントなのだろうけど。
「でも先程言ったように、彼が私に告白をすれば、前向きに検討するというだけで、私自身が彼を好きなのかと聞かれると、頷けないわ」
やはり俺が思った通り、鈴嶺さんは別に俺のことが好きというわけではないらしい。
単純に、自分のことを好いてくれているのなら、付き合ってもいいかもしれない相手、と思われているだけだった。
まぁあの鈴嶺さんが言っていると考えると、それだけでも十分凄いと思うが……。
「そして、彼も私に告白をすることはなかった――というのが、おじさんの質問に対する答えよ」
あまりにもクールに答えた鈴嶺さんに対し、全員が息を呑んでしまう。
あの心愛ですら、笹川先生の真似をして喉を鳴らしたくらいだ。
「もう一つ言うと、美咲がいろんな人に告白をされて断っていたから、白井君を勧めただけね。彼に告白されたなら、受けてもいいんじゃないって。相性がいいことはわかっていたから」