第122話「幼馴染は負けヒロイン」
呆れたように言う鈴嶺さんだけど、俺が見てないところで美咲が警戒心剥き出しにしているのだろう。
笹川先生に接する態度を見ているので、その姿が簡単に想像できてしまった。
「なんだかかなり嫉妬深いみたいで、俺を笹川先生や鈴嶺さんに取られるんじゃないかって危惧してるみたいなんだ。俺が二人とどうにかなるはずがないのにな」
空気を変えるために、笑い話をするように言ってみた。
しかし――
『それは誰かさんが、美空さんの水着姿に目を奪われていたせいじゃないかしら?』
――とても辛辣な言葉を返されてしまった。
「……あれは別に……」
『まぁ年頃の男の子だものね? 年上のお姉さんで、あんな魅力的な体付きをした美女の水着姿には、目を奪われてしまうのも仕方がないわよね?』
あれ、なんで俺は今チクチクと刺されているんだ……?
そう思うくらいに、鈴嶺さんの言葉や声が刺々しかった。
白い目を向けてきている彼女が容易に想像できたくらいだ。
「なんか怒ってるのか……?」
『私が怒る理由がないでしょ? 何を言っているの?』
じゃあなんでそんな刺々しいんだ――と返したくなるが、機嫌を損ねそうなのでグッと我慢をした。
鈴嶺さんみたいな人は怒らせると根に持つタイプで、後々絶対に厄介だから下手なことは言わないほうがいいのだ。
――昔はガキ大将みたいな性格だったし。
『ねぇ、今何考えてる? 私のこと馬鹿にしてるでしょ?』
「突然何を言い出しているんだ、そんなはずないだろ」
俺は内心、《なんでわかるんだよ……》と思いつつも、悟られないように誤魔化した。
勘がいい人は厄介すぎる。
『ふ~ん……? まぁいいわ』
こちらの発言は全然信じていない様子を見せながらも、一旦彼女は流してくれたようだ。
今度ネチネチと言われそうだな。
『美空さんに関しては、白井君が見せた態度が悪かったということは言っておくけど、私に関してはあなたと幼馴染だったことがよほど嫌なんでしょうね』
鈴嶺さんは話を戻し、どうして自分が美咲に警戒されているかを分析する。
「まぁそれくらいしかないだろうな」
後は、鈴嶺さんも美少女だってことだろうけど、それはわざわざ言う必要はない。
言えば彼女に引かれるだけでなく、軽蔑の言葉が飛んでくるだろう。
「とはいえ、幼馴染って言ってもずっと会ってなかったんだから、何かあるというわけがないんだが」
と、そこまで言って思う。
これは地雷を踏んだかもしれない。
『ふふ、そうよね? あなたは私のことすっかり忘れていたものね?』
やはり、俺の勘は正しかったようだ。
彼女は実に楽しそうに笑いながら、俺が忘れていたことを持ち出してきた。
これ多分、口は笑っていても目は笑っていないんだろうな。
「鈴嶺さんがだいぶ変わったというのもあるだろ……」
あのガキ大将が、静かなクール美少女になっているだなんて、想像が付くはずがない。
……いや、まぁガキ大将と言っても、はっちゃけてたり乱暴をしたりするわけじゃなかったけど、無言の圧力とか強引な態度で強制的に連れ回されていたからな……。
『その話は置いといて、幼馴染だからどうこうあるわけではない、というのは賛同するわ。むしろ幼馴染なんて、大体が負けヒロインだしね』
よほどガキ大将時代のことは話したくないのか、彼女から掘り返した割にはすぐに話題を戻してしまった。
本人にとっては黒歴史なのかもしれない。
というか、よく『負けヒロイン』なんて言葉を知っているな。