第121話「苦情の電話」
『――甘やかしすぎ』
それは、美咲と毎日のように家で遊んでいたある日のこと。
美咲を送って家に帰ってきたのを見越したように、鈴嶺さんが電話をしてきたのだけど――どうやら、苦情の電話のようだ。
「いや、彼女だから甘やかすのは当然だろ……?」
どうして文句を言われないといけないのか、わからない。
――と言いつつ、本当はなんとなく彼女が何を言いたいのかわかるのだけど、向こうから言ってくるまでは知らないふりをしておく。
『毎日惚気を聞かされる身にもなってくれるかしら?』
うん、予想通りだったようだ。
どうやら美咲は、帰ってから鈴嶺さんに俺とのことを話しているらしい。
いつもニコニコと幸せそうで浮かれているので、幼馴染である彼女に話しているんだろう。
時々ならいいが毎日聞かされるのなら、鈴嶺さんがたまったものじゃないと言うのもわかる。
「本人に言えばいいじゃないか」
『悲しませることになるでしょ?』
俺に言われても困るのでそう言うと、間髪入れずに返されてしまった。
意外と打たれ弱い美咲は、鈴嶺さんから『そういう話をするな』と言われたら、確かにショックを受けてしまいそうだ。
だからといって、俺に投げられても困るのだけど。
「まぁ大目に見てやってくれ。本人からしたら、今が一番楽しい時期なんだろうし」
今までの彼女は恋愛を怖がって避けていたのだから、その反動みたいなのもあるんだろう。
いずれ落ち着くはずだ。
『我慢を覚えさせることを失敗したからって、私に我慢するように言うのは違うんじゃないかしら?』
「――っ!?」
バ、バレてるだと……!?
「なんのことだ……?」
『全部、あなたのかわいい彼女が教えてくれたわよ。ずっとお願いしてたら、許してくれたって。それはもう、詳細にね?』
「……詳細に……?」
あれ、なんだろう……?
変な汗が出てきたんだが……?
『あなたたち、随分とキスが好きなのね?』
「もう二度と話さないようにしっかりと言っておく」
今度は俺が間髪入れずに返した。
浮かれているのはわかっていたけれど、まさかそんな話までしているとは思わなかった。
いくら相手が幼馴染だからといって、話し過ぎだ。
『私が言いたいこと、わかったかしら?』
「あぁ……そういう話は聞きたくないわな……」
少なくとも、俺は他人のそういった踏み込んだ恋愛事情は聞きたくない。
まぁ、そういう話をする相手はいないんだが。
「というか、普通そういう話って幼馴染でもするものなのか……?」
『人に寄るんじゃないかしら? 私たちは、まぁ……するほうかもしれないわね。今回は、それだけじゃないでしょうけど』
「ん? それだけじゃないって、どういうことだ?」
『牽制――の意味もあるんじゃないかと思っているわ。あの子は無自覚かもしれないけど』