第120話「勝ち」
「どっちも……」
美咲は悩んだ末、グリグリと俺の胸に顔を押し付けてきた。
どちらかを選ぶんじゃなく、どちらも取ることにしたらしい。
やはり欲望に忠実で、欲張りだ。
「それはずるいというか……俺が頷かないってわかってるだろ……?」
彼女は決して馬鹿ではない。
むしろ学力面で見ればかなり優秀なほどに地頭がいいし、理解も早くて賢い子のはずだ。
そんな彼女が、こんな当たり前のことを理解していないはずがない。
「だって……私が甘えられるのは、彼氏の来斗君だけだもん……」
「…………」
美咲が涙声で呟いた言葉に、俺は思わず言葉を失ってしまう。
説得していたはずなのに、思わぬカウンターを喰らった気分だった。
「……来斗君……?」
俺が何も言わないのが気になったんだろう。
美咲は顔色を窺うように恐る恐る俺の顔を覗き込んできた。
「……降参だ」
「えっ――んっ……!?」
俺は、美咲の口を塞いだ。
驚いたように目を見開いた美咲だけど、状況を理解すると嬉しそうに目を閉じる。
俺も合わせて目を閉じ、少し二人だけの時間を過ごす。
先程美咲が言っていたことだけど、実際のことで言えば甘えられる相手は俺以外にもいる。
姉の笹川先生や、幼馴染の鈴嶺さんには昔から沢山甘えてきたことだろう。
だけど、彼女たちに甘えることと、彼氏である俺に甘えるというのは、一緒のようで違うと思う。
美咲が今抱えている欲求を満たせるのが俺しかいない以上、これはもう爆弾と同じだ。
他で解消されない以上、その欲求は美咲の中に溜まり膨れ上がり続ける。
つまり、我慢させてもいずれ破裂し、我慢させればさせた分、衝撃――反動は凄いことになるのだ。
それなら、こまめに少しずつ解消してあげたほうがいいと思った。
――というのは建前で、なんだかんだ求められて嬉しかったのだ。
かわいい彼女に特別扱いされていて、嬉しくない男なんていないだろう。
「――ぷはっ……えへへ……」
息継ぎのために口を離すと、美咲はすぐにだらしない笑みを浮かべた。
焦らせていたこともあり、それだけ嬉しかったようだ。
「んっ……」
だけど、すぐに次を求めてくる。
やはり一回では足りないらしい。
俺はチラッと美咲の後ろで寝ている幼い妹へと視線を向ける。
まだ朝早い時間というのもあり、起きる気配は今のところなかった。
だから優しく美咲の頭を撫で、先程の行為を再開する。
そのまま俺たちは美咲が満足するまで続け、その後は一緒にベッドへと入るのだった。