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第12話「優しい笑顔」

 いきなり切り込んだ質問をしてくる鈴嶺さん。

 この思い切りと度胸の良さが、彼女の長所なのだろう。


 相対する人間からしたら、厄介極まりないが。


「尋ねる相手を間違えていないか? それを聞くなら、美咲だろ?」


 下手に情報を与えないよう、俺は呆れた顔をしながら鈴嶺さんの目を見つめる。

 彼女がカマをかけてきているなら、うまく(しの)がなければ。


「美咲には聞きたくないのよ」

「どうしてだ?」


 この二人、片方は隠したがって、もう一人は聞きたがらないなんて――本当に、幼馴染か?


 そう思ったのだけど――。


「この状況だと、私が聞いた場合あの子は嘘を吐くしかない。だからあの子に嘘を吐かせないように、私は聞かないの。私、嘘が嫌いだから」


 どうやら、美咲のことをわかっているからこそ、彼女は聞かないようだ。


「いや、幼馴染なら普通、正直に話すもんだろ?」


 俺は、あえて美咲にした質問と同じようなのを、鈴嶺さんにも投げてみた。

 やっぱり()に落ちてないのと、彼女がどう返すか気になったからだ。


「先に、私の仮説を言わせてもらえないかしら?」


 しかし、彼女はすぐには答えず、お願いをしてきた。


「別に構わないが……」

「ありがとう。美咲はね、彼氏を作らない理由があるの。それなのに、今まで仲良くしていなかった男の子と付き合っているなんて、普通に考えておかしいわ」


 やはり、鈴嶺さんは美咲のトラウマを知っている。

 詳しく言わなかったのは、俺が美咲から聞いていない可能性も考慮したんだろう。

 学校ではよく一緒にいたイメージだし、友人関係も把握していておかしくはない。


「それで?」


 まだ何か言いたそうなので、とりあえず先を促してみる。


「だから、今日美咲が教室で言ったということに、答えがあったと思ってる。夏祭りの時、美咲がナンパにあってしまって、白井君が彼氏のフリをして助けたんじゃない?」


 そう言って、鈴嶺さんは確信を得ている強い瞳で、俺の目を見つめ返してくる。

 凄い自信だ。


「普通の奴ならそうだったかもしれないな。だけど、俺の悪評を知らないのか? そんな面倒ごとに、わざわざ自分から首を突っ込むとでも?」


 美咲のことを知られすぎていて厄介だが、偽彼氏の役割はまっとうしようと、自分なりのアピールをしておく。

 学校の奴らなら、俺は人付き合いが悪くて冷たい奴で、助けに入るはずがないと思っているはずだ。


 しかし――。


「あなたなら、普通に助けるでしょ?」


 なぜか、鈴嶺さんはそう思っていないようだ。


「いや、助けないだろ……?」

「ふ~ん?」


 あっ、声でわかる。

 全然信じていないな。


「まぁ、それは置いといて」

「置いとくなよ!?」


 あまりにもあっさり流されるから、ついツッコんでしまった。


「無駄な問答(もんとう)になりそうだから、いいじゃない。どうせあなたは譲らないし、私も譲らないから」


 確かに、俺としては認めるつもりはないが、彼女が譲らない理由はなんだ……?

 変な信頼を得ているようだが、俺と彼女はほとんど関わりがないのに。


 学校で話したって、他の男子がされているように、塩対応だし。


「話を戻すけど、偽カップルとして演じた場を、多くの生徒たちに見られてしまった。そして、チャットアプリで大量に質問が来た美咲はこう考えたはずよ。白井君とこのまま偽カップルを演じていれば、告白劇場から解放されるって」


 鈴嶺さんは(あご)に手を当て、自信満々に自分の推理を語る。

 探偵かよ、とツッコミたくなったが、今の彼女は比較的雰囲気が柔らかいので、下手に怒らせるようなことはできない。


「鈴嶺さんも、告白劇場って言ってるんだな」

「見世物になってしまってるからね」


 彼女は、淡々と答える。

 やっぱり、他人事のような感じだ。


「怒らないのか? 幼馴染が見世物にされてるんだぞ?」

「話を逸らそうとしても無駄よ?」

「いや、そういうつもりじゃないが……」


 ちっ、バレたか。


「まぁ質問には答えてあげる。面白がって見てる人たちには思うところがあるけれど、告白をしている男の子はみんな、真剣なのよ? 止められるはずがないわ」


 なるほど、だから彼女は止めないのか。

 勘違いされやすいが、告白劇場は周りが面白がって見ているだけで、美咲に告白をしていた連中はみんな本気だった。


 あの、女子たちからモテているバスケ部キャプテンでさえ、本気で告白をしていたのだ。

 だから、鈴嶺さんは目を瞑っていたらしい。


 元を()てないのに、野次馬を追い払おうとしても難しいしな。


「意外と、優しいんだな」

「あら、ついに本音が出ちゃったわね?」


 思わず出てしまった言葉に対し、鈴嶺さんは敏感に反応して、ニヤッと笑みを浮かべる。


 そして――

「怒るわよ?」

 ――と、声のトーンを数段下げて言ってきた。


 うん、普通に怖い。


「優しいって褒めたんじゃないか……」

「意外とってついてたわよね? つまり、優しそうには見えないって言ってるじゃない」


 そんなの、言われる自覚があるだろうに……。


 まぁ、これ以上余計なことは言えないが。


「それで、私の考えは当たっているかしら?」


 このまま話が逸れるかと思ったが、ちゃんと彼女は覚えていた。

 さて、どうしたものか……。


「俺が違う、と言って信じるのか?」

「あなたがそう言いきるなら、信じるわ」


 ……なるほどな。

 確かに、彼女は信じるつもりでいるようだ。


 だけど――『嘘だった時、わかっているでしょうね?』と、目が言っていた。


 まぁここまでバレているなら、話してしまってもいいと思うが――美咲との約束がある。

 破るわけにはいかないだろう。


「想像に任せる」

「……それはずるいわ」


 俺が誤魔化すと、鈴嶺さんはムスッとした。

 納得がいかない答えなのはわかる。


「これは俺と美咲の問題であって、鈴嶺さんに話す必要も義務もないからな」

「…………」


 鈴嶺さんは不機嫌そうに目を細め、黙り込む。

 俺のほうが正論なので、言い返せないのだろう。


 そもそも、美咲が誰と付き合おうと美咲の勝手、と割り切っているなら、嘘かどうかを確かめようとするのがおかしいのだが。


「はぁ……無駄足だったわ」


 どうやら、諦めてくれたようだ。 

 変な揉めごとにならなくてよかった。


「それで、美咲が鈴嶺さんに正直に話さない理由は?」

「私の答えが合っているかどうか教えてくれないのに、それは聞くのね?」

「気になるからな」


 美咲側の答えは知っているが、美咲の考えを理解している鈴嶺さんが同じ答えを出すとは限らない。


「はぁ……」


 彼女は仕方なさそうに、溜息を吐いた。


「告白してくる男の子たちの想いを、嘘で裏切ってしまったと考える美咲は、私に知られたら嫌われると思っているわけ」

「でもそれなら、怒らないことを鈴嶺さんが教えてやればいいんじゃないか? 実際、怒ってないんだろ?」


 美咲が嘘を吐いていると気付いている割に、鈴嶺さんに怒りの色は全然見えない。

 このことに関して、彼女は怒っていないはずだ。

 単純に、美咲の思い込みだと思う。


「美咲が困ってたんだから、正直に話してくれれば当然怒らないわ。比較的マシな解決策だとも思うし。でもね、いくら幼馴染みだって私から言う義理はないし、そこまで甘やかすつもりはないわ」


 どうやら、それくらいは腹をくくって言ってこい、と思っているようだ。

 親や先生みたいな考え方をする子だな……。

 彼女にとったら、同い年でも美咲は妹みたいなものなのかもしれない。


「質問に答えてくれてありがとう。それと、悪かったな、わざわざ来てくれたのに」

「ふふ、あなたが謝るって、おかしいわね」


 こちらは質問に答えてもらったので、一応謝ったのだけど、なぜか鈴嶺さんは口元に手を当てて、おかしそうに笑った。


 彼女が男子相手に笑うところ、初めて見たぞ……?


「私が勝手に来たのだから、謝る必要はないわ。それに、もう一つ用事はあるのだし」

「げっ、まだ何かあるのか……?」

「そんな、嫌そうにしなくていいじゃない」


 俺の反応が気に入らなかったらしく、彼女は拗ねたように目を細めた。


「母親に勘違いされたくないんだよ」

「安心して、まだ帰ってこないだろうから」


「いや、さっきから思ってたんだけど、なんで人の親のことに詳しいんだ?」


 いい機会なので、聞いてみることにした。


 だけど、彼女は鼻で笑って肩を(すく)める。


「意地悪して教えてくれなかった人には、教えられないわ」


 どうやら、意趣(いしゅ)返しらしい。

 美咲も彼女も、意外と子供なところがあるな……。


「俺のは意地悪じゃないだろ……?」

「私にとっては同じよ」

「はぁ……わかったわかった。それで、もう一つの用事ってのは?」


 おそらく、俺が話すまで彼女は答えないので、もう聞き出すのは諦めた。

 さっさと帰ってもらおう。


 そう思ったのだけど――。


「美咲のこと、ありがとうね。めんどくさいところもある子だけど、いい子だから守ってあげて」


 とても優しい笑顔で、お礼を言われてしまった。


「…………」

「それじゃ、おやすみなさい」


 彼女はそれだけ言うと、ご機嫌そうに去っていくのだった。


 ……いや、もう何がなんだか……?

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