第118話「解決(?)」
「どうしたらキスしてくれるの……?」
先程の意趣返しなのだろうか?
俺がしたように、彼女も自分の要求が通る解決策を聞いてきた。
その瞳は、まるで縋るように潤いと熱を持っている。
「今日一日我慢してくれたら……かな?」
「それ、してくれてない……!」
誠実に答えると、美咲はグリグリと顔を俺の肩に押し付けてきた。
不満をアピールしているつもりらしい。
彼女が聞きたいのは、”今”キスしてもらえる方法なので、仕方がないのだけど。
というか、これだけねだってくるのに自分からキスはしようとしないんだよな。
体勢的に美咲からされると躱すにも限度があるのだから、押し通せることは彼女もわかっているだろうに……。
プライドか、もしくは強引にして溝ができるのを怖がっているのか――まぁ、後者だろうな。
もしくは、単純にされるほうが好きってだけかもしれないが。
「夕方まで我慢というのはどうかな?」
俺は先に言うかどうか悩んでいた内容を持ち出す。
当初の予定通り夜になれば、母さんが帰ってきて彼女を送る際に二人きりになれるので、キスできるタイミングなどいくらでもあるだろう。
そして、時間的に考えても普段の学校がとっくに終わっている時間なので、美咲が学校では我慢できるという証明にもなる。
今日丸一日我慢ではない、とわかった美咲は我慢できるかもしれない。
その可能性に賭けてみたのだが――。
「むりだよぉ……」
もう泣きそうになっているような声で、美咲は顔を横に振った。
これはかなり重症だ。
「キスって昨日初めてしたばかりだろ……? 今までやってなかったんだから、我慢できると思うんだが……」
ちゃんと付き合っていなかったとはいえ、美咲の気持ちが固まったのは昨日ではないだろう。
それよりも前から多分俺に対して好意を抱いてくれていて、その上で昨日付き合っただけの話なのだから、昨日まではキスをしなくても平気だったということになる
しなければ生きていけないというものでもないのだし、普通なら我慢できると思うんだが……。
「一度知っちゃったら、もう我慢なんて無理だよ……。私をこういうふうにしたのは来斗君なんだから、責任取ってよ……」
美咲は何も知らない人が聞けば勘違いしそうな言葉で、俺にキスを要求してきた。
母さんがこの場にいなくてよかったと、心底思う。
「まぁ気持ちがわからないわけではないが……」
多分今の美咲は熱に浮かされているようなもので、初めて知ったことにハマり我慢ができなくなっているのだろう。
あえてキスをしないまま時間を置けば熱は引き、欲求も収まるんじゃないか――
――と、頭ではわかっているが……。
「うぅ……」
今にも泣きそうな彼女を前にしていて、罪悪感がわかないはずがなかった。
心愛を悲しませてしまった時のように、胸が痛い。
とはいえ、ここで俺が折れるということは、問題を先送りにする行為だろう。
長い目で見れば悪手な気がする。
さて、どうしたものか……。
「――じゃあ、これでどうだ?」
現状を乗り切るにはどうしたらいいか悩んだ俺は、彼女の頬にソッとキスをするのだった。