第117話「ジト目」
「どうしたら我慢できる?」
このままではラチが明かないので、美咲の意見を聞いてみる。
まぁ、なんとなく答えはわかるような気もするけど。
「キスしてくれたら……」
やっぱりか。
予想通りすぎる返答に、少し頭が痛くなった。
それは我慢していないということだ。
「我慢する気ないよな?」
「来斗君がいじわるするからだもん……」
男子みんなが惚れる学校のマドンナが、ここまでの甘えん坊だといったい誰が想像しただろうか。
鈴嶺さんでさえ、今の美咲を想像することはなかったんじゃないか?
そう思うくらいに、甘えん坊で幼子のようになっている。
正直、かわいすぎてやばかった。
「これはいじわるじゃないよ」
俺はソッと抱き寄せ、美咲の後頭部を丁寧に撫でる。
だけど美咲は、俺の肩に乗せた顎をグリグリとしてきた。
イヤイヤ、と顔を横に振っているようだ。
俺はそのまま頭を撫で続けたり、背中を擦ったりして美咲が落ち着くのを待つ。
やがて――。
「むぅ……!」
俺の肩から顔を離した美咲が、頬を膨らませながら不服そうに俺の顔を見てきた。
目の端には涙が溜まっている。
落ち着くどころか、逆に怒りが溜まったようだ。
「意地にならなくてもいいんじゃないか?」
「意地になってるのは来斗君だよ……! 彼女を甘やかしてよ……!」
切実そうに訴えてくる美咲。
可哀想にはなってくるけど――。
「あまり大きな声は出さないでくれ。心愛が起きる」
「あっ……」
あえて心愛のことを持ち出すと、美咲はハッとした表情を浮かべて口を押えた。
心愛が起きれば俺と二人きりの時間は終わり、俺が心愛を構うようになるので、美咲としても困るだろう。
しかし何より、せっかく気持ちよく寝ている幼い子を必要なく起こすなど、許されることではない。
美咲はそれをちゃんとわかっているようだ。
――あと単純に、寝ているところを騒いで起こすということはビックリさせることになるので、心愛が泣き叫んで困るって可能性が高いし。
「それはそうと、甘やかしてはいるだろ?」
キスをしていないだけで、膝に座らせたり頭を撫でたり抱きしめたりして、十分甘やかしている。
「そういうことじゃなくて……。わかってて言ってるでしょ……?」
俺が指摘したことが気に入らなかったらしく、美咲は目を細めて不服そうに見つめてくる。
先程話を逸らしたことで、少し落ち着いたようだ。
「もちろん、わかってるけど」
「ほんと、優しいのにいじわる……」