第113話「一緒にいたい彼女」
「そ、そんなに単純かな……?」
納得いかなかったのか、美咲は小さく頬を膨らませながら子供のように拗ねた態度で尋ねてくる。
「なんというか、欲望に忠実だからな」
少し前の美咲からは信じられないくらいに、今の美咲は歯止めが利いていない。
どうして彼女がそういう行動を取ったかと考えた時、何が狙いかなんて丸わかりだった。
これだけ単純だと、そりゃあ鈴嶺さんに通じるはずがない。
「こ、これでも結構我慢してるんだよ……!?」
「嘘だろ……?」
超時間俺を引き留めたり、キスを何度もせがんできたり、こうして朝早くからベッドに忍び込んできているのに……?
いったい美咲の欲望は、どれだけ激しいんだ……?
彼女は見た目や頭脳だけでなく、欲望のほうも規格外なのかもしれない。
「嘘じゃないもん……」
美咲は頬を膨らませたまま、不満をぶつけるかのように俺の胸に顔を押し付けてくる。
いったい何を我慢しているのか聞きたい気持ちと、聞いていいのかという気持ちが俺の中でぶつかり合う。
正直、聞くのが怖い。
「彼氏のベッドに忍び込んだ状況で、我慢しているって言われてもな……?」
これ以上のことってあまりなくないか……?
という意味を込めて、美咲にぶつけてみる。
「こ、これは不可抗力っていうか、来斗君たちが気持ちよさそうに寝ているのを見て、眠たくなっちゃったんだもん……!」
「本音は?」
「……せっかくの機会なので、多分許してもらえると思って一緒に寝ました……」
嘘が通じないとわかっているのか、意外にも尋ねると素直に答えてくれた。
まぁ眠たくなったというのも嘘ではないかもしれないけれど、行動に移したのは今話してくれたことが大きいのだろう。
「やっぱり欲望に忠実じゃないか」
俺はそう言いながら、美咲の体を優しく抱きしめて頭を撫でる。
「あっ……♪」
このタイミングで撫でられるとは思っていなかったようで、美咲から漏れた声はわかりやすく上機嫌なものだった。
不満を抱いていたはずなのに、撫でられたことでどうでもよくなったらしい。
こういう意味でも単純な彼女だ。
まぁかわいいからいいのだけど。
優しく撫でていると美咲はもう何も言ってこず、緩めた頬を俺の胸に擦り付けながら甘えてきた。
目が覚めた時にいたことは驚いたけれど、こうやって俺を求めてくれるのは彼氏冥利に尽きると思う。
少なくとも、学校の男子で今の俺の状況を知れば、羨ましがる奴が大半のはずだ。
――今更だけど、この子学校で滅茶苦茶モテてるんだよな……。
そんな子が、俺の彼女になって沢山甘えてきているだなんて不思議な感覚だ。
「とりあえず、顔を洗ってくるよ」
彼女に寝起きの顔をあまり見せたくなかった俺は、美咲の体を放して自分の体を起こす。
しかし――。
「気にしないから、このまま……」
美咲は俺の服の袖を掴んで、行かしてくれそうになかった。
まだまだ甘え足りないのだろう。
「さすがに俺が気にする。心愛を見ててくれ」
「むぅ……」
再度優しく頭を撫でて言ってみるも、美咲は小さく頬を膨らませて拗ねてしまった。
このまま後を付いてきそうな雰囲気だ。
――だけど、やはり甘えん坊の美咲でも心愛のことは放っておけないようで、俺が部屋を出ようとしてもベッドに座ってこちらを見ているだけだった。
ちゃんと俺がいない間は心愛のことを見てくれるらしい。
俺はそのことに少し安堵しながら、顔を洗いに洗面所へと向かうのだった。