第112話「添い寝彼女」
朝目を覚ますと、違和感を抱いた。
前側は、いつも心愛と一緒に寝ているのでこの子の温もりがあることは珍しくない。
問題は、後ろ側――背中側だ。
なんで、人の温もりがある?
その上、ピタッと全身にくっつかれている感覚もあるのはなんだ?
――そんなの、決まっている。
こんなことをする人なんて一人しかいない。
もちろん、母さんではない。
「なんでもういるんだ、美咲……?」
俺は後ろを振り返りながら、そこにいるであろうかわいい彼女に声をかけてみた。
すると、美咲はゆっくりと目を開ける。
俺にくっついて寝ようとしていたようだ。
「…………」
多分、どう言い訳――説明しようかを考えているのだろう。
美咲は俺から目を背けながら、黙り込んでしまった。
だから俺は、枕元に置いていたスマホへと手を伸ばす。
時刻を見てみれば、母さんが仕事に行った後の時間だ。
美咲は俺の家の鍵を持っていないので、あの人が家に入れたのだろう。
そして多分、俺の部屋に入るように唆したんじゃないだろうか。
美咲を気に入っているあの人なら、十分にありえる。
「約束の時間って、まだだよな?」
「朝早く目が覚めちゃって……やることもないから来てみたら、来斗君のお母さんがちょうど出てこられて……」
やっと口を開いた美咲は、何があったのかを説明してくれる。
だけど多分、これは少しだけ嘘が含まれている気がした。
「ちょうどじゃなくて、俺の家の前をうろついていたら、仕事に行こうとする母さんが出てきたんじゃないのか?」
「見てたの……!?」
嘘と思わしき部分を指摘すると、美咲は驚いてしまった。
やはりそうだったらしい。
電車の時間と母さんが仕事に行く時間をある程度把握していれば、それくらいわかるものだ。
問題は、どれだけ美咲がうろついていたかだが――。
「早く来てくれるのは嬉しいけど、あまり家の前をうろつくのはやめてくれ。ご近所さんに変な噂を立てられる」
幸い美咲が美少女だから美咲自身が疑われることはないだろうけど、目を引くような見た目をしているし、明らか家の前でうろついていたら俺の家に用事があるんだってこともわかるので、俺が彼女に何かして呼び出しているんじゃないかと思われかねない。
もしくは、あのお喋りおばさんによって美少女の彼女がいるということは知られているので、朝早くから彼女を呼び出している酷い男という噂も立つ恐れがある。
俺自身が悪く言われるだけならいいが、母さんや心愛に迷惑をかけるようなことは避けたかった。
「ごめんなさい……」
「わかればいいんだよ。それに、心愛が起きる前なら甘えられると思ってきたんだろ?」
「……来斗君は、エスパーなの……?」
「美咲が単純すぎるんだよ……」