第110話「お泊り」
本日(5/23)
『数々の告白を振ってきた学校のマドンナに外堀を埋められました』
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「――もう着いちゃった……」
俺の家に着くと、美咲が寂しそうに服の袖を引っ張ってきた。
帰るなって言いたいんだろう。
「車だと近い距離だから仕方ないさ。笹川先生、ありがとうございました」
俺はお礼を言うと、美咲の手を取る。
どうせすぐには解放してくれないし、笹川先生がいると気になってしまうので、二人きりで話したかった。
「私がお泊りコース……!?」
しかし、美咲は勘違いしたらしく、ボンッという音を立てるような勢いで顔を真っ赤にした。
相変わらず天然な子だ。
「なわけないでしょ。少し話そうってだけだよ」
「むぅ……」
否定すると、わかりやすく頬を膨らませて拗ねる。
照れたくせに泊まりたかったようだ。
さすがにそんなことさせられないのだけど。
「すぐ終わらせますので」
「ゆっくりでかまいませんよ」
断りを入れると、笹川先生は笑顔で首を横に振ってくれた。
遅い時間だというのに、相変わらず妹に甘い。
俺はお礼を言いつつ、美咲の手を引いて一緒に車を降りる。
「話って何? 泊まったら駄目なんだよね?」
「その話を引きずらないでくれ……。単純に、車の中で別れるのもあれかなって思っただけだよ」
俺は一応車から見え辛い位置へと美咲を連れていく。
わざわざ移動したことで言葉にしなくても俺が考えていることはわかったのか、美咲の体が少しだけ固くなった。
「目を瞑ってくれ」
「あっ……はい……」
美咲は借りてきた猫のようにおとなしくなりながら、ギュッと目を瞑る。
俺は彼女の頬に手を添えて、ゆっくりと顔を近付けた。
「――んっ……」
柔らかくてしっとりとしたものの感触があった後、俺はすぐに顔を離す。
「…………」
それにより、物足りないと言わんばかりの不満そうな表情を美咲から向けられてしまった。
「何回もする余裕も時間もないから、これで終わりだよ」
あまり時間がかかると笹川先生に怪しまれるし、夜遅いとはいえ他の人に見られるリスクもある。
何より、美咲が際限なく求めてくるのはわかりきっているので、これ以上はしないのだ。
「自分だけ満足してずるい……」
「じゃあ、しないほうがよかった?」
「……聞かなくてもわかってるくせに……」
美咲はグイグイという感じで俺の服の袖を引っ張って、不満をアピールしてくる。
笹川先生が言っていたけれど、本当に最近の美咲は子供のようだ。
偽カップルになる前とは別人と言われても信じるかもしれない。
「また明日な?」
俺は笑みを浮かべながら美咲の頭を優しく撫でる。
すると、反撃と言わんばかりに美咲が俺に抱き着いてきた。
そして、首元に口を押し付けられる。
「こら、美咲……!」
俺はくすぐったい感覚に襲われながら、腕の中の彼女を注意する。
「おあいこだもん……」
美咲はそう言うと、意外にもおとなしく俺の首から離れた。
一応、満足してくれたのだろうか……?
「お泊り、したい……」
いや、満足してなかった。
「駄目だってば。もし泊まるなら、ちゃんと親御さんの了承を得てだ」
さすがに泊まるとなれば、親に嘘を吐くことは看過できない。
バレた時に美咲の両親から信用されなくなるし、今後の関係に大きく影響するだろう。
だからそうならないように、そこはきちんとしておきたい。
「みんな黙ったり嘘吐いたりして彼氏さんの家に泊まったりしてるよ……!」
「他所は他所だよ。親の考えや反応も人それぞれ違うんだし、その人たちが大丈夫だったとしても、俺たちが大丈夫だって保証はないでしょ?」
もっと言えば、何も考えてない可能性だって十分考えられるのだし。
バレなければいいとか、バレたらその時に考えればいいというような考えもあるだろうが、俺には合わないことだ。
「むぅ……」
「はいはい、拗ねない拗ねない」
俺は優しく美咲の頭を撫でてなだめる。
逆に言えば、美咲の両親が了承してくれれば泊まりに来てもオーケーなんだけど、美咲はそのことに気が付いていないようだ。
美咲をかなり気に入っている母さんが反対をするとは思えないし、心愛は間違いなく喜ぶので、本当にその時がくればちゃんと泊めることはできるんだけど。
まぁ、その時がくれば、だが。
「とりあえず、今日はもう帰って明日おいで。笹川先生も帰らないといけないんだし」
俺はそう説得し、美咲を笹川先生の車に乗せるのだった。