第11話「氷の女王様の来訪」
「――にぃに……ねんね……」
食事を終え、お風呂にも入って少しした後、俺の腕の中にいた心愛が眠たそうにし始めた。
既に20時を過ぎているので、もう寝かせる時間だ。
「お布団行こうね」
「んっ……」
俺は心愛を抱っこしたまま立ち上がり、俺の部屋へと連れて行く。
そして、ベッドの上に寝かせて布団をかけると、優しく頭を撫でた。
「おやすみ、心愛」
「おやすみ……にゃしゃい……」
もう半分寝ぼけているみたいだ。
ゆっくり眠らせてあげよう。
「――すぅ……すぅ……」
五分ほど経つと、心愛のかわいらしい寝息が聞こえてきた。
俺は起こさないように静かに部屋を出て、リビングへと向かう。
「母さん、今日は遅くなるって言ってたから、洗濯もの先にしておこうかな」
心愛が幼くて目をあまり離せないので、家事はあの子が寝た後にすることが多い。
宿題もまだやっていないし、やることがいっぱいだ。
早く終わらせないと、寝る時間が減ってしまう。
そう思っていた時――
ピンッポーン♪
――家のインターホンが鳴った。
嫌な予感がする……。
母さんなら、家のインターホンを鳴らしたりしない。
そして、こんな夜中にセールスはそうそうこないだろう。
いったい誰なのか――それは、モニターに映った顔でわかった。
『こんばんは、中に入れてもらってもいいかしら?』
モニターに映る、制服姿の少女――鈴嶺さんは、淡々と要求を伝えてくる。
まさか、彼女が来るとは思わなかった。
教室にこなかったのは、美咲抜きで俺と話したかったからか……。
「もう夜も遅い。明日じゃ駄目なのか?」
『賢いあなたならわかるでしょ? 私が、わざわざここに来た理由が』
笑顔でも、怒るわけでもない。
無表情で淡々と言われ、背筋が冷たくなる。
「美咲の件だろ? だったら、美咲がいるところで話したほうがいい」
『あの子がいると、話が進まないの。それとも、お母様が帰ってこられるまで、私はここで待っていましょうか?』
暗に、目的を果たすまで帰らないことを伝えてくる。
どうして俺の母親が家にいないのを知っているのか、ということも気になるが――外で待たれると、当然俺は困るのだ。
「わかった、開けるよ……」
話をつけるため準備をしてきた彼女と、不意打ちでこられた俺とでは、どちらが優位か明白だ。
揉めごとは避けたかったんだが……。
「――どうぞ」
「悪いわね、こんな時間に」
ドアを開けると、鈴嶺さんは普通に入ってきた。
母親がまだ帰ってきていないことまで知っているなら、こういうふうに入れないと思うが…。
ましてや、彼女は男嫌いなのだし。
「そう思うなら、時間を考えてくれたらよかったんじゃないのか?」
「塾帰りなの。あなたの家は私が通ってる塾から遠いし、これでも急いできたのよ?」
それで、制服なのか。
まさか、そこまでして話に来るとは……。
幸いなのは、意外と雰囲気が柔らかいことだ。
少なくとも、学校の時ほどピリピリはしていない。
「妹が寝ているから、あまり大きな声は出さないでくれ」
「えぇ、あなたが変なことをしない限りは、出すことはないわ」
まぁ確かに、彼女はクールなので大声はそうそう出さないだろう。
もし出すとすれば、その必要がある時だ。
二人きりなので、警戒されているのは仕方ない。
むしろ、この状況で警戒しない子のほうが困る。
「話ってのは、文句を言いに来たのか?」
とりあえず、こちらから本題を切り出す。
あまりのんびりしていると母さんが帰ってきてしまうので、早くお帰り願いたい。
「文句? なんで?」
しかし、鈴嶺さんはキョトンした表情で、首を傾げてしまった。
あれ、違うのか……?
「てっきり、美咲との件を怒っているのかと思ったんだが? 幼馴染だと、思うところがあるだろうし」
「私、あなたにどう思われているか、わかった気がするわ」
俺の発言が気に入らなかったようで、鈴嶺さんは目を細めてジト目を向けてくる。
そんな口を滑らせてはいないと思うが……。
「他意はない。幼馴染みのことを心配するのは当然だし、嫌われているような男と付き合ったら文句を言いたくなるのが普通だろ?」
現に、美咲の友人たちは文句を言っていた。
それが普通だと、俺も思うのだ。
「別に、美咲が誰と付き合おうと、あの子の勝手だし」
鈴嶺さんは呆れたように息を吐く。
クールな子なので、あまり周りに興味がないのだろうか?
「鈴嶺さんのは大人の意見だと思うが、幼馴染が相手にしては冷たくないか?」
「あら、あなたがそれを言うのね?」
なぜかわからないけど、一瞬鈴嶺さんの目が鋭くなった気がした。
そんなまずい発言だったか……?
「まぁいいわ。別に私だって、あの子が間違っていると思えば、文句を言うこともあるわよ? でも別に、今回のことが間違いだったなんて思わない」
「だから朝の騒ぎの時、教室にこなかったのか。だけど、だったらなんで今更来たんだ?」
納得しているのなら、わざわざ足を運ぶ必要なんてない。
仲がいいならともかく、俺と彼女はあまり話をしない仲なのだし。
だが――俺がその質問をしてくるのを待っていたのか、彼女はほくそ笑むように口元を緩めた。
「あなたたち、本当は付き合っていないでしょ?」
「――っ」
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