第105話「認識の違い」
初めてキスをした感想は、柔らかい――というものだった。
それと、熱を含んだ息が彼女の口から入ってくる。
少し甘味も感じる気がするのは、気のせいだろうか?
――というか、ここからどうしたらいいんだ?
恋人たちがすることに対してほとんど知識がない俺は、これからどうしたらいいのかわからなかった。
もう離せばいいのか、それとも息が苦しくなるまでこうしておくべきなのか。
もしくは、もっとしないといけないことがあるのだろうか?
そんなことを考えていると――。
「あむっ……」
美咲が唇を動かして、ハムハムと俺の唇をマッサージするかのように刺激してきた。
なるほど、こうするものなのか。
俺は美咲にされたように自分も仕返してみる。
すると、美咲は動きを止めて俺に全てを預けるかのようにされるがままになった。
体重も預けてきており、今までとは違った甘え方をされているように感じる。
とりあえず満足しているようなので、俺は続けてやってみた。
――だけど、それだけでは物足りなくなったのか。
息が苦しくなってきた俺が口を離そうと考えた瞬間に、突然美咲の舌が俺の口の中に入ってきた。
「――っ!?」
お互いの舌が当たってビックリした俺は、思わず口を離してしまう。
「あっ……」
反射的に取った俺の行動に対し、それが拒絶だと感じたのか、美咲は怯えるように俺の顔を見上げてきた。
今のは間が悪かった気もしなくはないが、さすがにビックリだ。
キスって、初めてで舌を入れるものなのか……?
「え、えっと、その……」
「悪い、息が苦しかったんだ」
可哀想なくらいに怯えながら泣きそうな表情になっている美咲を見て、俺はすぐにフォローを入れた。
一応、これは嘘ではない。
「嫌で、離したんじゃないの……?」
「驚きはしたけど、今のはタイミングが悪かっただけだよ。美咲のことで嫌なわけないじゃないか」
初めてのキスで――というのは戸惑いがあるけれど、どうせ付き合っていくなら遅かれ早かれの話だ。
それに対して嫌という気持ちは絶対にない。
……うん、驚きはしたけど。
「じゃあ、もう一回……」
一度で足りなかったのか、美咲は再度目を閉じて顎を上げてきた。
てっきり、一度で終わりのものだと思っていたんだが……。
「時間が……」
「やっぱり、嫌だったんだ……」
このままだとエンドレスになるような気がしたので時間を理由にやめようとすると、またもや悲しそうな目を向けられてしまった。
上目遣いに俺の顔を見てきているので、正直ずるいと思う。
こんな目を彼女にされて、放っておけるはずがないじゃないか。
「そうじゃないって。わかった、時間が本当にまずいから次がラストな?」
俺は再度美咲の頬へと手を添える。
それにより、美咲は嬉しそうに目を閉じた。
はてさて、本当に次がラストになるのかどうか……。