写真の依頼
雑貨店の店員に顔を覚えられてしまった。それどころかファンだと言われた。その一瞬自分の写真を肯定された嬉しさが通り過ぎたが、なんだか気まずくて恥ずかしくて、店に行きづらい。
数日後の夜のことだった。インスタに赤い印がついていて、DMが来ていることに気がついた。DM?誰から……?私にはメッセージを飛ばしてくる友達も知り合いもいないのに。
名前を見ると、見覚えのあるオフィシャルアカウントからのものだ。
「私は雑貨屋 pieni( ピエニ)のオーナー兼店主の 汐谷 凪と申します」
「この前はファンだ、なんて言って驚かせてしまいすみません。憧れの方にお会いできて、つい取り乱してしまいました」
「この度は折り入ってお願いがあります。うちの店の商品の写真を撮って頂けませんか」
「写真を?」
どういう意味だろうか。思わず聞き返してしまった。
「はい。インスタを開設したのですが、僕には上手に写真を撮ることが難しいのです。綺麗な写真を掲げられず、うちのアカウントや店に興味を持って下さる方が増えないのです」
「勿論、お礼はさせて下さい。maoさんでしたら素敵な写真を撮って頂けると思います」
お手伝いということだろうか。小さい頃はボランティアが好きだったが、今は奉仕活動に積極的に取り組むタイプではない。
でも、現実で写真を褒めてもらうことなんて今まで無かったし、褒められて嬉しかったのも事実だ。たしかに気まずいとも思ったが、そのように評価してくれる人の力にもなりたいとも思う。
「今度、撮りに行きます」
「本当ですか!ありがとうございます」
こうして次の日。私はまたあの店へ向かうこととなった。