焚き火の子
焚き火を見ていた。
ずっとずっと、焚き火を見ていた。
海岸、夜、誰もいない。
波と焚き火の音だけがあって、
自分は一人ぼっちだった。
焚き火を見ていると、
何もかもどうでも良くなってくる。
全部全部燃えて、
焚き火の中に消えていけばいいと思っていた。
でも もう、どうでも良かった。
つらいことは たくさんあったが、
それなりに 良い人生だったように思う。
燃やしたい記憶ばかりだったのに、
燃やすことはできずに
ただ ただ 雪のように積み重なっていくだけだった。
もがいて苦しんだ人生だったが、
それも 今日で終わり。
冬なので、冷たい風が吹いて、
海は凍るように 吹きすさぶ。
焚き火で 暖を取る自分の手は
それでも とても冷たい。
まるで死ぬ前のようだと思う。
この世には自分しかいない。
自分は一人ぼっちだった。
みんなみんな消えて、
世界にはもう
自分と 海と 焚き火だけだ。
もうすぐ時が来て、
自分の全ても もう消える。
その前に、暖だ。
暖を取るのだ。
あったかくて、寒くて、
静かで とても気持ちがいい。
それなりに良い人生だった。
こんな最期を迎えるとは思っていなかったが……
そうして少し笑って、
なぜだか愉快になる。
海は大きい。
人間は小さい。
自分の 小さな両手も 露となって消える頃、
全身はとても暖かかった。
波は大きくて、うるさいのに静かで、
この世にはもう誰もいなくて、
焚き火はそのまま パチパチと燃えていて、
そうして世界は それでも続く。
人間がいなくなってもそれでも続く。
朝が来て 波が火を搔き消して、
海は変わらず 大きくて、
そうして 世界は周ってく。
最後の焚き火はもう跡形もなかった。