最後の作品
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「タイムマシンにお願い 気軽に読めるショートショート集2号」からの一篇抜粋です。
大好きだった大錬金術師と呼ばれたおじいちゃんが亡くなって1年。おじいちゃんの研究塔に捜し物に出かけた。家から徒歩10分。なんで離れているの? と聞いたら、おじいちゃんは、研究結果が暴走して家に被害が出たら困るだろう。と、優しく答えた。
後で聞いたら危険な研究を割としていたらしく、家族に被害が出るのを恐れていたらしい。通りで。
でも、今はお弟子さん達や、国の人たちがその研究を引き継ぐためと言ってあらかた資料を持ち出してしまっていた。
家族が引き継ぐものではないかと思われる人もいるかもしれないが、おじいちゃんは生涯妻帯せず、後継者にしようと思ってとった養子に画才があるのがわかると、さっさと美術学校に送り込んでしまった。
父は美術学校を出て、自分の才能に見切りを付けたのか、画商となってそれなりに成功した。おじいちゃんほど有能な人が身近に居ると自分の才能が矮小なものにみえてくるのではないかと僕は思っている。
で、僕は画商の2代目になるべく目利きの訓練を受けている最中だ。
さて、好天気の中、塔に入っていくと執事アルファが出迎えてくれた。アルファはおじいちゃんが作った、塔を管理する自動人形。猫型獣人を模した形をしている。素人の僕には動力が何かさっぱり分からない。国はアルファに興味を持っているが、塔から出ようとしないし、力尽くで停止させようとすると、逆に麻痺させられてしまうため諦めているのが現状だ。
「姫様、いらっしゃいませ」アルファは言った。僕は姫でもなんでもない。おじいちゃんが僕のことを「私の姫」と言っているのを彼はまねているのだ。それに、今は王政でもない共和制なのでみんな気にしない。
さて、今回の捜し物は、おじいちゃんが描いた絵。学者はスケッチ力が凄いと聞くが、おじいちゃんは一度、ちゃんとした絵にしたことがあるらしい。と、父さんが言っていた。どんなものか一度見てみたいと思ったのだ。
「アルファ、おじいちゃんが描いた絵のところに案内してくれ」
「かしこまりました。3つありますが、どれでしょうか?」
はて、1つだけと思っていたが、3つあったか。
「全部見せてくれ」
「はい、では、こちらへ」と、第1研究室に入っていった。後を追うと、アルファは耳をピクピクさせて立ち止まる。前には、ノート大の絵が飾ってあった。アルファのスケッチ。確かに絵は上手だが、僕が見てきた画家のような迫力は無い。
「これは私を見て描いたのはなく、完成予想図として設計したときに描いたものだそうです」アルファは言った。
確かに、絵のアルファは尻尾が長い。実際のアルファは短尾だ。
「わかった。次」アルファは上階の第2研究室へ向かった。階段はしんと静まりかえっている。
次の絵はすぐに分かった。僕を抱えているお父さんの絵だ。これは、結構、身びいきと言われるかもしれないが、微笑ましくて芸術的な絵だ。アルファの絵より上達しているように見える。
「坊ちゃんと、姫さまの絵です」アルファは見れば分かることを律儀に解説した。自分を継がせるつもりで養子にもらったのに、思い通りにいかなかったのは残念だけど、こんな絵を描いたのはそれはそれで幸せだったんだろうな。
「いい絵だな」
「もしかして、これをお売りになるおつもりで?」
「そんなことしないよ。家族の宝物だし」するわけない。お金には困ってないし。
「では、3枚目の絵を」3階の第3研究室へと向かった。
第3研究室は誰も入ったことのない、禁忌の部屋。アルファは部屋の前には案内するが今まで誰も入れようとしなかった。
アルファは扉の前に立つと、
「生体認証で姫様と確認してますが、最後に私のロットナンバーを呼んでください」
「アルファAB2418」
「認証しました。解錠します」
部屋には整然とした実験道具があった。大きな容器があり、絵は見たところどこにもない。
「アルファ、絵は?」
「そこに立って、向こうを見てください」指さした先に大鏡があった。
――あなたが、おじいさまの作品ですよ。
アルファの話によると、おじいちゃんは人工生命体の研究を完成させていたらしい。自分に似せなくて、子供に似せたのはどういうことだろう。僕を父の嫁にするつもりだっただろうか? いやいや、そんな気持ちは全くなかったと思う。ただの気まぐれだろう。
僕はアルファから説明を受けながら、そう思った。