07話 覚醒
――やり直しはきかない。一発勝負だ。
自らに言い聞かせつつ、岩場の陰から状況を確認した。
少し先には、ざっと40体程の魔物の集団がいるようだ。
――カウンターの出来が生死を分ける。
タイミングが早過ぎればスキル失敗で殺される。
かといって遅過ぎれば、スキル発動が間に合わずに殺される。
攻撃を受けてから即時の発動が出来るか否か。
それこそが生き残る為の鍵となる。
――いくか。
隠れながら、敵との戦闘距離まで近付いていく。
そして視界のほとんどを漆黒の集団が埋め尽くすと、
「さあ、来いよっ!」
俺は《隠密》を解除して躍り出る。
『――!』
異形の群れは瞬く間に反応した。
狂ったように迫り来る。
『オォオオオオオオオオオオオオ――ッ!』
勢いのまま殺しに来るが、俺は両手を素早く動かした。
黒影の騎士達の攻撃を受け、2本のダガ―が光り輝く。
――《カウンター!》
敵の黒剣2本がバキリと折れ飛ぶ。
貫通した斬撃は、2体の黒影の騎士を斬り裂いた。
――良い感じだ。
双剣での戦いは、思った以上に身体に馴染む。
「《カウンター!》」
叫びながら全力の押し蹴りを敵に喰らわせ、
「うぐっ!」
カウンター失敗のペナルティで身体が弾き飛ばされた。
――緊急回避は成功だ。
狙い通りの高速離脱で追撃をかわせた。
――確認はもう十分だ。ここからは俺が戦場を支配する。
「《身代り》」
41体の囮が一斉に出現した。
魔物達は狂喜乱舞で殺到するが、
「消えろ!」
全ての囮が瞬時に消えた。
魔物達は突然のことにバランスを崩し、
ストーンゴーレムが大きく斜めに傾いた。
「はぁっ!」
俺はそいつの元に素早く走り、
――《カウンター!》
倒れる巨体の真下へと滑り込んでカウンターを放った。
パァンッ!
石のシャワーが辺り一帯に降り注ぐ。
俺を圧し潰そうとしたから、カウンターの餌食となった。
――いくらでも戦いようはある。
考察しながら、バックステップで集団から距離を取った。
「《身代り》」
新たに出現する囮。
魔物達は大きく混乱しているが、
『kfoa&u:laiΔua@@a!』
奇怪な振動音を発して骸骨戦士が詰めて来る。
俺は右手のダガ―で振り下ろしの剣を受け止めた。
そして強く弾き返すつもりで、
――《カウンター!》
斬ッ!
骸骨戦士の首が飛ぶ。
頭部の消えた胴体を押し退け、二首の黒狼が新たに迫る。
喉を食い千切ろうと飛び込んでくるが、
高速の上段蹴りで牙を迎え撃つ。
――《カウンター!》
バキンッ!
『ギャヒンッ!』
牙の折れた二首の黒狼ごと、後方の敵を押し戻した。
俺は間髪入れずに追いすがり、カウンターを使って全力で頭を踏みつける。
スキル失敗の反発力で宙へと舞った。
――集中しろ!
『ギシャアアアアアアアアアアアア』
豪炎蜥蜴の咆哮。
絶好の的と化した俺へと向けて、灼熱のブレスが放たれる。
――予想通り。
「はぁあああああああ――ッ!」
豪炎が身体に届く寸前、2本のダガ―をクロスして突き出した。
炎とダガ―が触れるタイミングを見切り、
――《カウンター!》
『ギャアアアアアアアアアア――ッ!』
複数の絶叫が響き渡る。
灼熱の突風が吹き荒れ、10体近い魔物が一瞬にして業火に呑み込まれた。
「炎を反射すると、こうなるのか」
――密集した敵に使えば有効だな。
次のターゲットを見定めて、俺は着地と同時に地を蹴った。
△
それからも戦い続けた。
剣も拳も牙も体当たりも、カウンターで跳ね返し続ける。
敵の動きを《身代り》で翻弄し、騙し、陽動しながら操った。
囲まれれば反発力で宙に舞い、迫られれば戦術的に離脱した、
積極果敢にカウンターで攻め、時には専守防衛で逃げに徹する。
そんなことを幾度となく繰り返し、利用できるものは全て何でも利用した。
どんな状況だろうと思考が止まることは無い。
地形もスキルも敵の動きも考慮して、俺の頭は正しい答えを弾き出し続ける。
――戦っている間は全てを忘れられる。
心地良かった。
まるで夢を見ているかのような感覚。
受けて。見切って。流して。蹴って。跳んで――斬る!
思うがまま、自由自在に身体が動く。
古物語に出てくる軽騎兵の如く、俺は縦横無尽に戦場を駆け巡った。
「――?」
ハッとして気が付くと、魔物は全て動かなくなっていた。
巣穴からの補充も適宜あったようだが、俺に近付いてきた敵は全て例外なく倒れ伏している。
「終わった……のか?」
おそらく300体程は倒したはず。
スキルの《潜入情報》でも確認したが、最下層フロアには24体の魔物が残っているだけだ。
俺の討伐ペースが速過ぎて、巣穴からの補充が間に合っていないんだろう。
これからしばらくは、散発的な戦いになるかもしれないな。
「痛っ!」
唐突に右膝が痛んだ。
どうやら身体への負担が大きかったようだ。
「休むべきだな」
結果は上々だ。
今日はここまでにしておこう。
生き延びることが第一だからな。
俺はスキルを使って身を隠し、その日は休息を取ることにした。