06話 最強への道筋
食料の目途は立った。
しばらくは食の心配がないとして、次に確保すべきは水だ。
長期滞在になるのであれば、飲み水が大量に必要になる。
――《潜入情報》
スキルを発動した。
フロアの立体地形情報を吟味していく。
「あそこに行ってみるか」
目星がついた。
ここから400m程先の岩場付近に、流体の流れがあるようだ。
飲めるかどうかは分からないが、行って確認してみればいいだろう。
慎重に数分歩くと、水場には難無く到着した。
この場所には地下水が湧き出ているようだ。
唯一の水場であるにも関わらず、罠もないから拍子抜けしてしまったが。
「……うん」
毒関知の魔導具には反応がなく、水の匂いも問題ない。
俺は手ですくって飲んでみる。
「飲めるな。普通の水だ」
アイテムボックスから水筒を数本出現させて、次々に水を汲んでいく。
これで生き抜く為の準備が出来た。
最低限のサバイバル態勢が整ったと言えるだろう。
俺は身体を洗ってから岩場の陰へと身を隠し、《隠密》と《消音》以外のスキルを全て無効にした。
寝たままでスキルを使用するにはコツがいる。
修得は簡単ではないが、やってやれないことはない。
今まで散々いいように使われてきたからな。
大抵のことなら出来るようになってしまった。
「都合よく使われるだけの道化だったからな」
いや、道化じゃなくて奴隷と言うべきか。
今となってはどうでもいい事だが。
それよりも、これから生き抜けるかどうかの方が重要だ。
おそらく命懸けの修練となるだろう。
この苦難を乗り越えた先に、望む未来が待っていることを願う。
△
数日経つと、俺は大きな壁にぶつかっていた。
「……行き詰まった」
倒しても倒しても魔物が巣穴から出てくる。
無限に湧いてくるエンドレス状態だった。
「討伐ペースが遅いんだ」
もっとハイペースで魔物を仕留める必要がある。
そうでもしないと永遠に終わらない。
だが俺の場合、同時に3体を相手にするだけでも危険だ。
避けられたから良かったものの、あわやという場面が何度かあった。
「くそっ。どうすればいい」
自分でも気付かないうちにボヤいてしまう。
「|《鷹眼》だけじゃどうにもならない」
スキルの《鷹眼》は、《盗賊》や《狩人》のような「身軽な攻撃職」であれば修得可能となっている。
動体視力が爆発的に向上するスキルだが、肝心の身体そのものが動体視力についていけなかった。
知覚してから手足が動くまでの間に、明らかなタイムラグがある。
――もどかしい。
解決する為には、どうしたって「身体の速さ」が必要だ。
「攻撃を避ける速さ。敵へと迫る速さ。俺にはどちらも足りていない」
特に複数体を相手にすると問題点が顕著になる。
思考の瞬発力に比べて、身体の瞬発力が明確に劣っているんだ。
――身体能力不足をカバーするには、どうしたらいい?
「他のスキルでどうにかならないか?」
スキル結晶を取り出してから、藁にも縋る思いで念じてみた。
脳裏に浮かぶスキルツリーを、一つ一つしっかりと確認していく。
「……ないな」
俺に関係があるスキルツリーには、該当スキルが存在しない。
別職の《付与術師》には、速度増加付与のスキルが存在するようだが。
そんなものがあっても、今この場で使えなければ意味がない。
「このまま朽ちるくらいなら、ダメ元で魔物の群れに特攻してみるか?」
――いや、無駄だな。
囲まれて袋叩きにされれば成すすべなんてない。
カウンターでの反撃中に、他の魔物に殺されるのがオチだ。
「そもそもカウンターを失敗する可能性だってある……って。失敗したらどうなるんだ?」
ふと思った。
『カウンター失敗時には、直後に2倍のダメージを受ける』
そういう説明だった。
「受けるダメージが2倍になるなら、受ける衝撃や反発力も2倍になるはず」
――それを利用すれば、あるいは。
俺はしばらく熟考した。
「速く動く為にはどうするか?」
簡単だ。
地面を力強く蹴ればいい。
地面を強く蹴る程に、速く動けるようになるのが道理だ。
しかし足が受ける衝撃もまた、同じように増していく。
つまりそれは「跳ぶ反動」としてダメージを足が受けているからに他ならない。
「だったら――」
――足が受けるダメージを2倍にしてやるだけで、いいんじゃないか?
推論の域を出ないが、これが可能なら一筋の光明が見える。
とにかく、まずは失敗して確認してみるのが先決だ。
カウンターを成功させるには「後の先を取ること」が必須となる。
攻撃を受けている状態でスキルを使えば成功し、それ以外の状態でスキルを使えば失敗とみなされるからだ。
「要するに、攻撃されてもいないのにカウンターを使えば、100%失敗して直後に受けるダメージが2倍になるんだろ? こんな感じで――」
――《カウンター》 ダンッ!!
スキルを使って全力で壁を蹴った。
グンッ!
「うおっ!?」
押し蹴りの反動が強過ぎて、身体がブワッと跳んだ。
俺はバランスをとって着地する。
「凄まじいな」
衝撃や反発力が2倍になったからだと思う。
経験したことのない衝撃が足にきた。
「両刃の剣だな」
多用し過ぎたら足の骨が折れそうだ。だが、
「これならいける」
良い方法が見つかった。
上手い感じに使いこなせば、現状を打破する糸口になりそうだ。