49話 千年王国
ライル達は、僅か3人でウォルス要塞を守った英雄として称賛を受けた。
戦争終結から数ヶ月後。
他国からは和議の使者が相次いで王国に派遣され、王位にある者との間で相互不可侵の条約が締結される。
この状況は国内の貴族達にとって好都合だった。
王家の弱体化に加え、条約締結により他国から侵略される恐れがなくなったからだ。
貴族達はこれを好機と捉え、更なる権力を求めて動き始めた。
内乱で国は荒れ、多くの血が流れるようになる。
そうした中、新たな指導者として国民から乞われたライルは、瞬く間に国を平定してグローツ王国の初代国王となった。
そして時は流れる。
平穏な時代が続いていたが、王都ではまことしやかに囁かれる噂があった。
「王城の地下では男の絶叫が毎夜聞こえる」といった噂だ。
だがそんな噂も、建国30年が経つとパタリと消えた。
その翌年、国王は王妃と宰相を伴って小旅行に出た。
行先は、魔物の集団暴走の被害から復興を遂げた村だ。
△
「終わったんだな」
「終わりましたわね」
集合墓地で俺達は佇んでいる。
金髪がくすみ白髪が混じり始めたクリフが、ゆっくりと振り返った。
その顔には悲哀の感情は見られない。
「もういいのかクリフ?」
「はい陛下。ロザリアも浮かばれるでしょう」
するとティリアが、俺を見ながら優し気に微笑む。
「お疲れ様ライル。ミーナさんも御両親も、これで心安らかに眠れるはずですわ」
「……そうだな」
俺達は全てをやり遂げたんだ。
見上げた空は、どこまでも澄んでいた。
△
歴史上で最も強い男と称されるのは、グローツ王国の初代国王ライルだ。ライルは、諸国連合が起こした侵略戦争によって、その名が広く知られる事となった。
始まりは、東の隣国がグローツ王国との不可侵条約を一方的に破棄した事だった。それに倣うように、他の国々も次々と条約を破棄してグローツ王国に侵攻した。
この侵略戦争は、他国で権力を握っていた者達が老いて、代替わりを進めた為に起こったと言われている。
若い権力者達は新興国の王を侮っていたが、ライルを知っている古参の意見を重用していれば、無謀な戦いなど挑まなかったはずだからだ。
グローツ王国には国王ライル・王妃ティリア・宰相クリフという三柱の英雄がいた。ゆえにグローツ王国軍は全ての戦いで圧勝し、王国の礎を築く事となる。
ライルは70歳で生涯の幕を下ろすまで無敗を貫いた。
死を迎える際にブラックドラゴンが王城を訪れているのも、無敗と併せて伝説として語り継がれている。
国王夫妻には5人の子がおり、子孫達も含めて聡明な者が多い。
その為、グローツ王国は長きに渡って繁栄し、後に千年王国と呼ばれるまでに至った。




