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48話 北からの襲撃

 馬車に乗り込むと、ティリアは憂いを帯びた顔をしていた。


「どうしたんだティリア?」

「この国の行く末は、一体どうなるのでしょうね」


 俺は答えに詰まる。

 それは誰にも分らないからだ。


「何とかなるさ」


 そう言って席に着く

 国境の砦に向けて、馬車は北へと進んで行った。

 今は、ぼんやりと景色を眺めているだけだ。


 目的地まで後3日という距離にある小さな街。

 そこで馬車を降りようとしていた時だった。


「北方から、とんでもない数の敵が攻めて来たみたいだ」

「本当か?」

「ああ。間違いないらしい。早く南に逃げないと、ここも危ないかもしれないぜ」


 そんな会話が耳に飛び込んで来た。


「すみません。詳しい話を聞かせてもらえますか?」


 俺は慌てて馬車を降り、立ち話をしていた男達に声を掛けた。


「どうもこうもねぇよ。よその国が連合組んで戦争仕掛けてきてんだよ」

「正確な場所は分かりますか?」

「北のウォルス要塞さ」


 北は北でも、俺達が予想していたよりもかなり西寄りだ。


「最悪だ。国が負けたら財産も作物もゴッソリ持って行かれるんだろう?」

「だからさっさと逃げるんだよ」

「ちげぇねぇや」


 男達は急いだ様子で立ち去っていく。


 この国は国王不在だ。

 身分の高い騎士や魔術師達も、かなりの人間が死んでいる。

 指揮系統もまともじゃない状態では、貴族達もどうしていいか分らないだろう。


 既にこの国の防衛は崩壊していると言っていい。

 仮に攻め込まれでもしたら、好き勝手に蹂躙されてしまう。


「目的地をウォルス要塞に変更しよう」


 異論があるはずもなく、俺達はクリフさんの提言に従う。


「他国は動きが速いですね」


 俺達が考えていたよりもずっと迅速だった。

 いつでも攻め込めるように、虎視眈々とチャンスを伺っていたのかもしれない。


「この国を長年守ってきた神通力も、とうとう潰えたのかもしれないね」

「変革の訪れなのかもしれませんわ」


 それから俺達は、何人かを呼び止めて情報を集めていった。

 少し前の雰囲気とはガラッと変わって、街は慌ただしい様相を呈している。


「北のウォルス要塞が突破されれば、そのまま王都に雪崩れ込んで来るね」


 集めた情報を元に、クリフさんは考え込んでいる。

 この国には、防衛線を張る力がもう残っていない。それを憂いているんだろう。


「大丈夫ですよクリフさん。俺達が敵軍を追い返せばいいんですから」


 油断するつもりはないが、そもそも人が相手なら大した脅威にはならない。

 ティリアも「そうですわ」と言って、俺の意見を肯定してくれてる。


 夜も深まった頃、俺達は北のウォルス要塞へ向けて出発した。


 △


 馬車を急がせた事もあり、2日と少々で到着した。

 まだ本格的な戦端は開かれていないようだ。


「間に合ったみたいだね」


 川を挟んだ先に敵軍は陣を敷いている。

 事前情報通りに10万人程度は揃っていそうな感じだ。

 その様子を見ながら城門付近で佇んでいると、


「何をしておるか!」


 砦の上部から怒声を浴びせられた。

 声を掛けてきたのは髭面の老人だ。


「あなた方の助けとなるべく参じました。私の名はクリフ・ローレンと申します」


 クリフさんは胸に手を当て、恭しく礼をする。


「不要だ! 死にたくないのであれば、直ちにここから立ち去れ!」


 それだけを言って、身を翻して消えていく。

 取り付く島もない。


「あれは死ぬつもりだね」


 敵軍には圧倒的な戦力がある。

 髭面の老人は、この要塞を死に場所に定めて籠城するつもりでいるんだろう。


 だが籠城してくれる方が俺達にとっては好都合だ。

 邪魔されずに済むからな。

 大勢の味方を守りながら戦うのは正直面倒でしかない。


 △


 日が最も高くなる頃、敵が進軍を開始した。

 川を渡りつつ、空を埋め尽くす程の矢を射かけてくる。


「《カウンター!》」


 俺は片っ端から矢を跳ね返していった。

 瞬く間に敵軍の被害が拡大していく。


 ティリアはシルフを召喚しては風の力で矢を逸らし、フェンリルを召喚しては川の水を凍らせて敵兵の身動きを封じる。

 クリフさんは運悪く重傷を負ってしまった敵兵を、死なずに済む程度にまで回復させていった。


「おらぁあああああああああ!」


 俺は敵軍に突っ込んだ。

 大混乱に陥る中を縦横無尽に走り回り、次々にカウンターで斬り伏せていく。

 最終的には渡河して、敵軍の本陣にまで攻め込んだ。


 戦闘開始から僅か数十分後。

 敵将含めて、完膚なきまでに全て叩きのめしていた。

 そして無力化した敵軍に対し、俺が伝えたのは以下の点だ。


 ・誕生した神は既に倒れている事。

 ・研究に関わっていた者達は死亡している事。


 それでも「納得出来ない」との声を上げた者達には、密偵でも放って好きなだけ調べろと言ってやった。


「今回は生かして帰してやるが――」


 敵将達は、俺を恐怖の目で見ながら息を呑む。


「次は無いと思え」


 一同に向けて脅しを掛ける。

 誰もが壊れた人形のようにコクコクと頷いた。


 敵軍は誰も死んでいない。

 その事実を見て、どれだけの力の差があるのかを思い知っただろう。


 これで、少なくとも俺達が生きてる間は平和が保たれるはずだ。

 この国に攻め込んで来る為の口実も、もう消滅しているしな。


 そして終結から半日後。

 散々脅してやったからだろうか、這う這うの体で全軍退却していった。

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