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47話 あれから1ヶ月

 そろそろ秋の気配が深まってきた。

 街の復興も進み、残骸の撤去なども粗方終わっている。


「街の皆さんの雰囲気も、大分明るくなりましたわね」

「意外と早かったな」


 すれ違う人達に悲壮感は見られない。

 呼び込みをする商売人や街を歩く少年少女も、その顔は笑っている。


「こんにちは」

「いらっしゃいライルさん」


 大きな建屋の道具屋に入り、馴染みとなった女店主と挨拶を交わす。


「そっちの可愛い子は彼女……じゃあないみたいね」


 ティリアは13歳だ。

 まだ少し幼い顔をしている。


「ああ。俺の仲間なんだ」

「ティリア・フロ……ティリアですわ。以後、お見知りおきを」


 ティリアが家名を名乗らなかった事で、女店主は何かを察したようだった。


「今日はどんな御用? 申し訳ないけど、レア素材はもう買い取れないよ」


 季節はこれから冬へと向かう。

 寒くなると狂暴な魔物が増える為、レア素材の運搬リスクも増えるからな。

 買い取っても販路に乗せられないんだろう。


「今日は素材の買取依頼じゃなくて、旅支度の為に来たんだよ」

「それは良かった。どんな物が欲しいの? 見繕うよ」

「えーっと、岩塩とポーションと毒消し、固形燃料になめし革――」


 女店主はサラサラと書き留めていく。

 ニコリと笑って「持ってくるから、ちょっと待っててね」と告げ、店の奥へと消えた。


「ティリア。欲しいのがあったら買っていいぞ」

「――!?」


 もの珍しそうな感じで商品棚を見ていたティリアは、驚いて振り返る。


「あ、あ、ありませんわ。欲しい物などありませんの」


 その割には熱心に見ていた品があったようだが。


「本当に要らないのか?」

「結構ですわ」


 そう言って俺から目を逸らす。

 それからしばらくの間、黙って店内を眺めていた。


「お待たせ。じゃあ支払いなんだけど」


 女店主に金を渡しつつ、「これもお願いします」と言って品物を追加した。

 ティリアは少しびっくりして固まっている。


「行くぞティリア」


 女店主の「今後とも御贔屓に」との声を背に受けながら、俺達は店を出た。


「ほら、これやるよ」


 手渡したのは小さな犬の置物だ。


「欲しかったら買っていいって言っただろ? 遠慮するなよ」

「……」


 手のひらサイズの置物は、ティリアがチラチラと見ていた商品だ。

 公爵家では肩身が狭かったと言っていたから、遠慮する癖が付いているんだろう。


「ライル」

「ん?」


「……大切にしますわ」

「ああ」


 ティリアの頬は紅潮している。

 余程嬉しかったようだ。


 △


 街の復興については片が付いたので、俺達は今後の計画を練る事にした。


 ちなみに宿屋の部屋の片隅には、シュナイザーが虚ろな目で転がっている。

 クリフさんが精神感応魔法のキツイ実験をやっているから、動く気力もないんだろう。


 そしてそろそろ日も沈もうかといった頃、ドアをノックする音がした。


「どうぞ」


 クリフさんが答えると、入ってきたのは恰幅の良い女将さんだった。


「皆さん。夕食のお時間ですよ」


 俺達はそれぞれ礼を言って、ワゴンに載ったディナーを受け取る。

 かなり豪勢なメニューで品数も多い。

 相当奮発してくれているようだ。


「いつもありがとうございます」


 クリフさんが頭を下げると、女将さんは「よしとくれ」と言って豪快に笑った。


「あんた達が街を守ってくれたんだろう? それに街の復興資金まで援助してくれてるんだ。礼を言いたいのはアタシ等の方さ」


 復興の資金源は、魔物の素材を売った金だ。

 素材はまだまだいくらでもあるので出費は特に痛くない。


「食べ終わったらドアの外に置いとくれ」


 女将さんが「それじゃあね」と言って退出していくと、俺達は食事を始めた。

 腹を満たして落ち着いたところで、クリフさんが話し始める。


「他国が攻め入って来る場合は、僕達の手で追い返そうと思うんだけど、それでいいかい?」

「はい」


 クリフさんの意見に頷いた。

 差し当たっては俺達の力だけで防げるしな。


 ただし、未来永劫そのままという訳にはいかない。

 周辺国から食い物にされない為にも、今後の国力向上は必須だ。


 それこそ数十年の時間を要するかもしれないが、いずれは国力が戻るように導いてやるのが俺達の責任だと思う。


「ライル君。ティリアちゃん。早速なんだけど」


 クリフさんは軽く咳払いをする。


「昼間に届いた情報によると、北の国境に他国の軍勢が集結しつつあるらしい」


 俺は息を吞む。

 そして翌日の早朝に、俺達は北の国境へと向けて出発した。

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