45話 決着
見た目はシュナイザーの男が右手を真横に振ると、2人の姿は掻き消えた。
「面汚し共が」
忌々し気に言うと、俺達の方へと向き直る。
「臣下に相応しき貴様等には神柱の種をくれてやろう」
「要らねーよ」
「不要だね」
「必要ありませんわ」
俺は両手にダガーを、クリフさんは杖を、ティリアはナイフを構える。
「逆らうか。それもまた一興」
そう言って両手を空へ掲げると、シュナイザーは4体に分裂した。
錫杖を持った細身の男。白い布を巻いた老人。勇ましい戦士の姿をした女。斧を持った大男。
「真の力を見せてやろう」
細身の男の言葉を合図に一斉攻撃が始まった。
老人が雷を降らせ嵐を起こし、女戦士は素早い剣戟で攻め立てる。
大男は当たれば即死という剛毅な一撃を放った。
俺達は連携を取りながら応戦していく。
「きゃっ!」
女戦士に迫られたティリアが慌てた声を出すが、クリフさんが数十発の《火矢》を放って女戦士を退かせた。
「少しはやるようだな」
細身の男は、高みの見物をしながら言った。
「ティリアどうした? 攻撃が通らないのか?」
「ええ。まるで効いておりませんの」
只のナイフじゃ駄目なんだろう。
「僕が特殊効果を付与するよ」
「えっ!? クリフ様は《付与術師》ではありませんでしょう?」
クリフさんは魔術であれば大概使える。
まあ本職の《付与術師》の域には届かないかもしれないが。
「《闇属性付与》」
ティリアのナイフが黒く染まった。
「闇属性付与?」
疑問に思って声が出た。
「敵は聖属性って事ですか?」
「一応ね」
「俺には悪の存在にしか見えませんけど?」
「聖属性であろうと、正義であるとは限らないってだけさ」
なるほど。
「それよりライル君。そろそろ様子見は止めてもいいんじゃないかな?」
「そうですね」
敵の手の内を読もうと防御一辺倒でやっていたが、特に脅威に感じるような事もなかったしな。
――じゃあ、行くか。
「《カウンター》」
ドンッと地面を踏み締めて駆け出すと、相手との距離がグングン縮まっていく。
迫る俺へと振り下ろされる斧の一撃に合わせ、
「《カウンター》」
斧の刃がバキリと割れ、そのまま勢い余って大男の首を飛ばした。
倒れ掛けてきたその肩へと足を掛け、空へと舞って身体を捻る。
「――!」
老人は理解不能な言葉を吐き、無数の風の刃を俺へと飛ばすが――
《カウンター》《カウンター》《カウンター》《カウンター》《カウンター》
「《カウンター!》」
俺は両手をフルに使って、確実に撃ち返していく。
全ての風の刃は老人へと返り、成すすべもなく地面に倒れ伏した。
「やぁあああああああっ!」
ティリアが女戦士の剣を華麗に躱し、その胸へと黒いナイフを突き立てる。
これで一応片付いた訳だが、
「ん? 今度は立ち上がってこないんだな」
ガーロンやダンログの時は何度も再生していたんだが、今回はピクリとも動かない。分裂しているから復活しないのか?
「何故だ何故だ何故だ何故だ――何故だっ!」
細身の男が叫んでいる。
「貴様等は『人ならざる者』なのかっ!」
「見たら分かるだろ。ただの人だよ」
多少規格外なだけだ。
「人如きが私の力を上回るとでも言うのかっ!」
ワナワナと震えている。
「落ち着けって。お前より強い奴なんていくらでもいるから」
「私は創世神なのだぞ!」
激しい怒りを見せながら左手を向けてくる。
衝撃波が撃ち出されたが、俺はクロスしたダガ―で難無く受け止める。
――重いな。
多少押されたあたりで、後方へと衝撃波を受け流した。
「死ね。貴様等は邪魔だ」
細身の男は空高く立ち昇る巨大な炎となり、神々しい不死鳥へと姿を変じた。
そして周囲の空気を焼き焦がしながら、猛然とこちらへ飛来する。
とてつもない熱量だ。
「《広域回復》」
クリフさんが高位の回復魔法を掛けた。
肌を焼かれる痛みが無くなり、俺は前を見据えて迎撃に専念する。
「はぁああああああああ!」
気合と共に大きく踏み込む。
向かってきた不死鳥を受け止めた瞬間に、右手のダガ―を全力で振り下ろした。
「《カウンター!》」
斬ッ!
「キィエエエエエエエエエ」
不死鳥は真っ二つに両断された。
「何故だっ!? 何故通じないっ!? 何故だ――ッ!」
シュナイザーの姿に戻ると、そいつは絶叫しながら力なく倒れ込んだ。




